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The Story of Ark -王無き世界の王の物語-  作者: わにたろう
第四章 融けゆく呪われし氷
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二つの炎が扉を破る

 翌日の夜、二人は今度こそ仮面とローブを身につけて王宮の門の前へと到達した。


「何者だ、貴様ら。ここがノックスサン国王宮と知っての狼藉か」


 門番たちは槍の切っ先をアカツキたちに向けながら構える。アカツキたちはその言葉に何も返答しないまま、門番たちの近くまで一気に詰め寄る。そして、地面を蹴り、門番たちの頭上へと飛び、ドロップキックするような形で王宮の門を蹴破った。

 大きな音を立てながら門が開いたため、王宮の庭園にいた兵士たちが、何が起こったのか咄嗟に理解することができずに呆然と立ち尽くしたままアカツキたちの方を眺めていた。アカツキたちは軽やかに着地すると、すっと立ち上がり王宮を見据えた。


「さあ、行くか」


 二人はお互いに頷くと王宮に向けてもう一度地面を蹴って走り出した。

 後ろから門番が「敵襲!!」と大声で叫んでいるのを背に二人は庭園を颯爽と駆ける。

 二人の大きな戦いが幕を開けた。




 窓の外から騒がしい声が聞こえてくる。

 自室で、三人の部下と共にお茶を飲んでいたロイズは、口から外したカップを静かに机の上に置き、すっと立ち上がる。


「三人共、私の話をよく聞いてくれ。私は今から、場合によってはこの国を裏切るようなことをするかもしれない」


 ロイズは凛々しい表情を曇らせながら三人に向けて重々しく告げる。その言葉を聞いた三人はそろって驚愕の表情を見せながら、暗く曇ったロイズの顔を覗き込むように見据える。


「昨日のあの賊ですか?あの後、士官は彼らと何をお話になったのですか?」


 部下の内の一人、女性の兵士がロイズに問う。


「詳しいことは今は言えない。それでも、場合によっては私がこの国を裏切るかもしれないということだけは覚えておいて欲しい。そして、その時は私に従う必要はない。自分の思うままに動いて欲しい」


 ロイズは身を切るような思いで、しかしその表情を三人には見せないように俯きながら告げる。


「それは士官、あなたを斬ることになっても、構わず斬れとそういうこですか?」


 残り二人の男性兵の内のメガネを掛けた、聡明な顔つきの男性が姿勢を正しながら静かに立ち上がる。


「そうだ、お前たちを私の私情に巻き込むわけにはいかない。お前たちはこの国の兵士として、自分の心のままに戦って欲しい。すでに事は起こっている。あまりここでゆっくりしている訳にもいかない。この話は以上で終わりだ」


 その言葉に、残りの男性兵も立ち上がると、三人共揃ってロイズに向けて敬礼をする。三人とも、何も納得できていないという表情を隠す様子もなく、それを見たロイズは軽く苦笑する。

 彼らはロイズを上司として尊敬している。逆らうことなどは決してない。納得できなくとも、自分の命には必ず敬礼で答えてくれる。だからこそ、ここで彼らに言っておかなければならなかった。自分の勝手な考えに彼らを巻き込まないために……。

 正直このとき、ロイズはアカツキたちを本当に信じていいのか迷っていた。

 昨日は二人の強い意志の込められた眼差しを見て、彼らを信じてみようと思った。そして実際、彼らは宣言通りこの王宮に攻め込んできた。後は、彼らが本当にこの国を救うだけの力があるかどうか……。それは、これから戦場で相まみえてから決めることにしよう。


「では、戦場へ赴くとしよう」


 ロイズは部屋の隅に置いてある兜を手に取り、三人の先頭を切って歩き出す。一本に纏められた髪を揺らしながら、ロイズはしっかりとした足取りで部屋の外へと向かう。


「行くぞ」


 ロイズの合図に三人は大きな声で「はっ」と返事をすると、彼らは戦場へと踏み入れていく。




 庭園には合わせて百人近い兵士がいた。アカツキたちの侵入に気づくと、呆然と立ち尽くしていた兵士たちもすぐに行動を起こし、手に持っていた槍や剣を構えて、アカツキたちへと向かっていく。

 ヨイヤミはアカツキの前に出る。剣を模ったの炎を携え、相手に接近する。炎の温度はなるべく鉄の融点に合わせる。温度は魔力に比例するため、なるべく出力は抑えたい。

 一人の兵士が、得物が届く距離まで接近してきた。振り下ろされた剣を炎の剣で迎え撃つ。炎に接触した剣の金属部はただれ落ち、一瞬で使い物にならなくなる。

 「なっ!!」と驚愕の声を上げて動きを止めた兵士の顎に、すかさず上段蹴りをかます。そのまま兵士は卒倒して、その場に倒れた。

 兵士が倒れたのを確認した二人はすぐさま、王宮の入口に向かって再び走り出す。次に彼らの元に到着したのは、槍を持った兵士二人。

 二人の兵士はヨイヤミに向けて、槍の切っ先を突き出す。ヨイヤミは両手を握ると、手に熱素を集中させる。熱素をまとった手で、槍の切っ先を掴み取ると、金属部が溶けてただの棒へと変貌する。


「うぅぅぅ、おりゃああああ!!」


 非力なヨイヤミは踏ん張って叫びながら、その棒を掴み兵士たちを左右へと投げ飛ばす。非力と言っても、レジスタンスで相当鍛えられた上に、魔力による補正があるため、甲冑を着た人間二人ならなんとか投げ飛ばすことができる。

 入口を見るとすでに二十人近い兵士が入口を固めていた。彼ら全員戦うのは少々骨が折れるし、時間も掛かる。


「しゃあないな。ちょっと痛いけど、我慢しいや」


 ヨイヤミは両手で丸の形を作り、その中心に熱素を集中させる。相当量の熱素を圧縮し、小さな火球を創りだす。


「くらええええええええ!!」


 咆哮と共に、直接当たらないように兵士たちの頭上に向けて火球を放つ。圧縮された熱素は、兵士たちの頭の上で暴発する。熱素が一気に周囲に放出されることで、爆発が起きる。その爆風に兵士たちは揃って吹き飛ばされる。続けて、閉じていた王宮入口が、爆風によって勢いよく吹き飛んだ。

 吹き飛んだ入口の先には、少し寒気を感じるほど、大勢の人間がアカツキたちを待ち構えていた。


「おう、おう。えらいお出迎えやな。こりゃ、突破するだけでも骨が折れるわ」


 入り口の先は大きな空間が広がっており、目の前には五百人以上の兵士たち。この大広間は、王宮のほとんどを占めているためかなり大きい。そのため、これだけの人数がいても狭いといった印象はない。

 辺りを見回すと、そこにはロイズの姿があった。兜をかぶっているため、顔は確認できないが、そもそも兜をかぶっているのは数人だけで、見たことのある兜をかぶっているのは一人だけだった。

 先程の庭園の兵士や門番もそうだが、兜はかぶっていなかったことから、兜はそれなりに序列の高いものにしか、かぶる権利が与えられていないようだ。

 全員が全員、臨戦体勢といった様子でこちらを見据えながら構えている。


「よし、じゃあまず一発かましとくか」


 ヨイヤミは先程の交戦で少しずれていた仮面の位置を軽く修正しながら、不敵に笑う。


「あんま無理すんなよ。それ、結構魔力消費するんだろ」


 アカツキは今のところは何もしないで済んでいる。ヨイヤミに無理をさせているのではないかと少し心配になる。正直な話、これから本当に無理をするのはアカツキの方なのだが……。


「大丈夫や。そもそも、普通に戦ってたら、余計に魔力消費するって。まずは、お前をあの扉の向こうまで送り届けるのが先やろ」


 この王宮は先程も述べたように、ほとんどをこの大広間が占めている。あの扉というのは、言うまでもなく王座への扉。ヨイヤミの第一目標は、アカツキに魔法を使わせずに、アカツキをあの扉の向こうまで送り届けること。


「じゃあ、行くで」


 ヨイヤミはもう一度、熱素を手に集中させる。今度は先ほどよりも大きく、貯める時間も長い。兵士たちは何が起こるのか解らず、誰も近づこうとはせずに、その場で身構えている。


「いけやあああああああああ!!」


 先程よりもさらに大きな咆哮を上げ、ヨイヤミは広間の中心に熱素の塊を放つ。先程よりも巨大な爆発が巻き起こる。先程と同じように少し上空へと放ったため、直撃した者はいないが、相当な爆風が起こったため、勢いで壁まで飛ばされ、卒倒する者は何人かいた。その中でも、兜をつけた兵士たちは誰ひとりとして、倒れていなかった。

 七人の兜をつけた兵士たち。おそらく剣術では、アカツキやヨイヤミがどうこう出来る相手ではない。ここからは、接近戦を余儀なくされる。広間中央部で剣を構える七人を見据えて、ヨイヤミは動き出す。

 ヨイヤミはまず、一番近くにいた兵士に向かって走りだす。兵士も剣を構えてヨイヤミを迎え撃つ。先ほどと同様に剣を溶断するが、兜をかぶっているため一撃で決められる場所はない。

 剣を失った兵士はひるむことなく、そのまま素手で構えをとる。剣が使えないと分かるや否や、格闘技に戦法を変更する。

 兵士は体勢を低くし拳を突き出す。拳はヨイヤミの腹部に直撃し、腹の底から無理矢理に空気が押し出されるような感覚を覚える。鍛えられた拳はまるで、巨大な金属の塊で殴られたような重みを持っていた。

 ヨイヤミが腹部を抑えてかがみ込んでいると、休む暇もなく相手が襲いかかってくる。相手はかかとを大きく上に上げ、そのまま振り落とす。ヨイヤミはなんとか転がりながらそれを避ける。そしてかかとがめり込んだ床を見て、悪寒が体中を駆け巡る。床には大きな圧痕が残り、その周辺にヒビが張り巡らされるように広がっている。いくら資質持ちと言っても、あんなものを喰らえば、ただでは済まない。

 ヨイヤミの危険を察して、ようやくアカツキが動き出す。ここで、ヨイヤミが殺られれば元も子もない。アカツキの接近に気づいた兵士は、ヨイヤミからアカツキへと向きを変える。

 アカツキは拳に熱素を纏い兵士に一気に肉薄すると、相手から繰り出された拳を体勢を低くすることで何とか躱し、熱素を纏った拳で腹部を殴りつけた。熱素によって甲冑が溶け、生身の部分に拳が入り込んだのを確認すると、熱素を抑えてそのまま力ずくで兵士を殴り飛ばした。


「ちょっと熱いけど、我慢しろよ」


 兵士は拳の勢いで数メートル飛ばされた。バランスを崩したまま、背中から勢いよく地面に叩きつけられ、すぐには行動できない状態となる。

 アカツキはヨイヤミのところまで駆けつけ、他の兵士たちの様子を覗いながらヨイヤミに手を差し出す。


「悪かったな、アカツキの手を煩わす気はなかったんやけど……。おかげで助かったわ」


 ヨイヤミはアカツキの手をとって立ち上がる。ヨイヤミが立ち上がったところで、兵士の一人がアカツキたちに問いかける。


「おい、賊ども。ここまでしてタダで済む訳はないが、一応何が目的か聞いておこうか?」


 ヨイヤミは相手の質問に答えるかどうか少し迷ったが、すぐに口を開いた。


「僕らの目的は、この国の奴隷解放や。今からその先におる、ここのバカ国王のところに行って、力ずくでも解放宣言してもらう」


 ヨイヤミの言葉を聞いた兵士たちは一度静まり返ったかと思うと、一斉に笑い出した。声を上げて、笑い出した。


「はははっ。他人のためにたった二人で、しかも奴隷のためにお前たちはここで戦っているというのか?バカはお前たちだろ。お前たちがどれだけ頑張ったところで、国王のペットであるガリアスには敵わん。お前たちは奴隷のために戦って、奴隷に殺されるんだよ」


 兵士は実におかしそうに腹を抱えて笑う。周りの兵士たちもそれに釣られるようにさらに声量を上げ、この大広間全体に笑い声が響き渡る。


「だまれ」


 アカツキの声に、笑い声が一斉に止む。


「ペットだと……。お前は、人間をなんだと思っている」


 アカツキは質問を投げかけてきた兵士を歯噛みしながら睨み、問いかける。


「あれは人間ではない。奴隷だ。奴隷をペットと呼んで何が悪い。それとも、おもちゃとでも呼んだほうが良かったか?」


 また、広間が笑い声で満たされる。ロイズがこの国に辟易するのがアカツキにもわかった気がする。この国はもう終わっている。他人を見下し、人間として扱わない。早くこの国の奴隷を解放しなければ、これからも多くの人間がこの国の犠牲になる。

 アカツキは黙ったまま、手に刀を出現させる。そして一言吐き捨てるように、こう告げる。


「お前ら、命はないと思えよ」


 アカツキの眼光に威圧され、何人かは後退りをした。そして、アカツキが地面を蹴って兵士たちに肉薄した。ヨイヤミもそれに続いて動き出す。

 アカツキは先程の兵士に向かって力いっぱい刀を振り下ろす。技術で勝てないのなら力押しでいくしかない。敵兵もそれに対抗して、金属同士がぶつかり合う。アカツキはそのまま力ずくで敵兵をなぎ払い、兵士の体勢を崩す。体勢を崩した兵士を、アカツキは兜ごと殴りつける。

 殴った勢いで地面に倒れた兵士の腹部を踏みつけ、熱素によって甲冑を溶かし、そのままねじる。熱さと痛みで兵士は悲鳴を上げ、そのまま意識を失う。

 相手の意識が飛んだのを確認したアカツキが王座への入口へと向かおうとしたその時、アカツキの元に数人の兵士が危険も省みずに飛びかかってきた。アカツキは咄嗟に自分の頭上で爆発を起こし、その兵士たちを爆風で吹き飛ばした。

 その瞬間にアカツキの目の前は開かれる。アカツキはヨイヤミのためにも入口に向かって、急いで歩を進める。


「ヨイヤミ、後は頼んだぞ」


 ヨイヤミは兵士たちの攻撃を去なしながら、一瞬の隙を見つけてアカツキに向けて親指を立てて返事をした。



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