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The Story of Ark -王無き世界の王の物語-  作者: わにたろう
第四章 融けゆく呪われし氷
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誰が為の砂の国

※現在リメイク版が最新話にて投稿中です。初めての方はそちらへ。



 

 アカツキたちは、ある国の食堂で昼食を取っていた。

 此処は、砂漠の中にある国、ノックスサン。砂漠国の中でもかなりの繁栄を見せる国である。

 近くに油田があり、工業国への輸出を行っているため、身分上位層は、かなり贅沢な暮らしをしている。

 もちろん、アカツキたちがいるということは、バランチア傘下の奴隷容認国家であり、この国の上位層は全ての仕事を奴隷に任せ、自分たちは踏ん反り返って暮らしているといった状態である。


 「あぁ、胸糞悪い。何なんだよここは。暑いし、水は高くて易々と飲めないし、見るからに奴隷って人間がそこら中にいるし」


 アカツキは、かなり機嫌が悪かった。アカツキたちは、やっとの思いでこの国にたどり着いたところである。

 アカツキたちは、レジスタンスを抜けた後、色々と寄り道をしながら二週間を掛けてこの国にたどり着いた。

 もちろん、砂漠に来るのは初めてで、二人は必死の思いでこの土地までやってきた。

 国に到着して、やっとゆっくり水を飲んで休憩できると思っていたのだが、砂漠国のため水がかなり高額の品となっていたのだ。

 しかし、飲まないわけにもいかないので、なけなしのお金を払って水を購入することにした。


「そういう国だってちゃんと言ってあったやろ。この国は、砂漠やから、なかなか水なんて手に入らんのや。とりあえず今は我慢しい」


 アカツキはチッと舌打ちすると、とりあえず運ばれてきた料理を平らげる。


「まあ、飯はうまいから、今のところは我慢してやる」


 口をパンパンに膨らませながら、吐き捨てるようにアカツキは言った。

 二人はこの国の奴隷を解放し、その奴隷たちと共に奴隷の為の国を作ろうという計画を立てていた。


「でもさ、何で一番最初がこんな砂漠の国だったんだよ」


 アカツキはヨイヤミに言われるがままこの国についてきたので、何故一番初めにこんな砂漠の地を選んだのか、さっぱりわかっていなかった。


「そういえば、言うてへんだっけ。この国はさ、基本的に上位層の人間しか奴隷を保有しとらん。あいつらは、自分は踏ん反り返って、奴隷たちに全ての仕事をやらしとる。んで、まあ奴隷の扱いがかなりひどいことで有名なんや、ここは」


 アカツキはヨイヤミの言葉に頷きながら黙って聞く。


「やから、真っ先にこの国の奴隷を解放しようってのが、僕の狙いや。その他にも、ここは王自体が資質持ちじゃないって理由もある。王に仕えとる奴隷こそが、資質持ちなんや。やから、ここから出したるって言うたら、上手いこといけば仲間になってくれるかもしれんと思てな」


 アカツキが、怪訝な顔で唸りながら質問する。


「そんな簡単に行くもんか。そんなんだったら、もっとどこか他の国がやってそうなもんだけど……。だって、ここ油田のある国だから競争率高いんだろ。今までも、何度もこの国は戦争に勝利してるって話じゃねえか。そんな簡単に行くんだったら、その奴隷を仲間にして、国を乗っ取れば簡単に済むんじゃねえのか?」


 ヨイヤミが少し驚嘆の表情を浮かべる。


「ほぉ、アカツキも色々考えるようになったな。僕は嬉しいわ。アカツキが少しずつでも成長してくれて。何か、親になった気分やわ」


 泣き真似をしながらヨイヤミはアカツキを茶化す。

 暑さも相まって、アカツキの怒りは容易に上昇する。

 立ち上がって拳を握ると、いつもどおり両手でヨイヤミの頭にグリグリと押し付ける。ヨイヤミは「痛い、痛い」と必死にアカツキから逃げる。

 アカツキが椅子に座り直すのを確認して、自分も椅子に戻る。アカツキが「んっ」と顎で早く質問に答えろと促す。


「はぁ、この国の王に従えとる奴隷のエレメントが氷なんや。俺らの相性から考えても、ここは絶好やと思ったちゅうのが、本当の理由や。幸い、此処は頻繁に戦争しとるから、此処の勢力情報は簡単に手に入る。やから、その奴隷以外に資質持ちはおらんってこともはっきりしとる」


 そこで、ヨイヤミの表情が少し曇る。


「ただ、ここの資質持ちはいくつもの戦争をこなしてきた歴戦の戦士や。まあ、戦士って言っても奴隷なんやけど…。やから、いくら相性が良いって言っても勝率はそんなに高くないかも知れん……」


 アカツキの怒りも徐々に下がっていき、ヨイヤミの言葉を落ち着いて聞いている。


「でも、僕はアカツキの力を信じとる。アカツキには退魔の刀だってある。それに、それだけ強い資質持ちを仲間にできたら、これから先グランパニアと戦うことを考えても、大きな戦力になるからな」


 アカツキはとりあえず納得したように「そういうことか……」と溜め息をつきながら頷く。

 だが、戦闘経験の浅いアカツキたちにとって、これから戦おうとする相手はあまりにも経験に差がありすぎることは明白だった。

 他の資質持ちとは異なる力を持ったアカツキではあるが、その力だけで本当にそれだけの経験の差を埋めることが出来るのだろうか。

 アカツキは不安に駆られながらも、顔には出さないように、唇を噛み締めながら、空になった皿を見つめていた。

 二人は食事を終えると、一戦交える前にこの国を全体的に下見して色々確認しておこうということで、外にでてこの国を探索することにした。

 外は日が照り付けており、数時間も陽に当たっていれば容易に干物になってしまえるような暑さだった。

 ちなみに、今の二人の服装は、頭にターバンを巻き、身体全体が隠れるような大きなマントで包み込んでいる。日差しが焼けるように熱いため、皮膚は露出させないようにしている。

 二人は、慣れない暑さの中をうめきながら歩いていた。


「アカツキ、あづい~。おんぶしてぇ」


 呻くヨイヤミを無視して、アカツキは歩みを速めた。

 此処は庶民街、貴族街、王宮と分かれており、入り口付近に土作りの簡素な家が立ち並ぶ庶民街があり、大きな門を抜けるとレンガ造りの立派な建物が立ち並ぶ貴族街がある。

 その先に更にもうひとつの門を抜けると、王宮が存在する。

 王宮は金箔が貼り巡らされ、庶民街から見ても、存在感が良く伝わってくる。


「ホントに、あんな金ぴかに着飾って何が良いんだか。ただ、無駄に金使ってるだけじゃねえか」


 相変わらず機嫌の悪いアカツキは「けっ」と唾を吐き捨てる。

 後ろから「ちょお、待たんかい」とヨイヤミが呼び止めるが、完全無視を決め込み、アカツキはどんどんと進んでいった。

 少し歩いていくと、いつの間にか後ろから声が聞こえなくなったので流石に気になって後ろ振り返ると、そこにヨイヤミの姿は無かった。

 待てと言われているのに待たなかった自分も悪いが、待ち合わせ場所は決まっているので探す必要も無いか、ととりあえず一人で行動することにした。

 アカツキはまず賑やかな庶民街を抜け、貴族街に行くための門の前にいた。

 門の前には、二人の門番がおり、大きな槍を携えて門の両端に立っている。


「あの、観光で来たんですけど、ここって通れますか?」


 アカツキは、門番に機嫌が悪いながらも、努めて丁寧に尋ねる。


「観光客の方ですか。えぇ、構いません。ですが、王宮への立ち入りはお断りしております。貴族街の奥の門は通れませんので、気をつけてください」


 門番もアカツキに向けて丁寧に答える。こんな砂漠で甲冑なんか着て一日中門の前によく立っていられるな、とアカツキは一礼しながら貴族外へと足を踏み入れた。

 貴族街に入ると、一変して、建物の雰囲気が変わった。二階立ては当たり前であり、立派な煙突などが目に入る。それらからは、もくもくと煙が立ち上り、その中においしそうな料理の臭いが混じって、アカツキの鼻腔を刺激する。

 今はちょうど昼食時のため、おそらくほとんどの家で料理が行われており、煙突からの煙はそれによる物だと、アカツキは思った。

 先程食べたばかりだというのに、アカツキはその臭いに誘われて食欲を増加させる。食べ盛りの歳であるのに加え、この暑い国で全身を覆う格好をしているため汗を大量にかくので、いつも以上に体力が削られ、水分はもちろん、食料も足りていなかった。


「くそ、ここにいたら余計お腹空きそうだ……」


 アカツキはぼやきながら、貴族街を徘徊していた。

 すると、ある場所で気分の悪い光景が目に入ってきた。奴隷が鞭で叩かれながら、無理やりに働かされていたのだ。


「ほら、しっかり働け。何を寝転んでいるんだ。寝ている暇があったら、さっさと立って、働かんか」


 鞭を持った男は、おそらく貴族だろう。高級そうな衣服を身にまとい、数人の奴隷を従えていた。

 彼は暑さで倒れた奴隷に、追い討ちを掛けるように鞭で叩き、無理やりに働かせていたのだ。

 アカツキはその場へ向かおうとしたが、その足をぴたりと止めた。

 これから、アカツキたちはこの国と一戦交えなければならない。しかし、こんなところで目立ってしまっては、警戒されて計画を実行しづらくなる。

 アカツキは、届きもしないような小声で彼らに向いて決意をつぶやく。


「もうすぐ迎えに来るから。今だけは、何とか耐えてくれ」


 そう言って拳を握り締めながら奥歯を噛み締め、その光景に背を向けて歩き出した。

 アカツキは、とりあえず王宮の門の前へと足を運んだ。

 そこからは、巨大で金色に輝きながら異常な存在感を放つ王宮を間近で見ることが出来た。

 金色の王宮は、太陽の光をもろに反射し神々しく光を放っており、それを眺めていると、なんだか酔いそうな気分になる。

 それでも出来るだけ近づいてみようと、門のぎりぎりまで行くと、案の定、門番に止められた。


「ちょっと、ちょっと。ここから先は行き止まりだよ。貴族街のところの門番に言われなかった?」


 アカツキは、「えへぇ」と頭をかきながら苦笑いを見せる。


「すいません。ついつい見とれちゃって。ちょっとでも近くで見たいなと思って」


 門番は「はあっ」と溜め息を吐きながら、特に怒った様子も無く少し自慢げに述べる。


「そういう観光客の人多いんだよ。ちゃんと、ここから先は行き止まりだって忠告してるのに。まあ、近くで見たい気持ちもわからなくは無いけどね」


 アカツキはそんな門番に、軽く相槌を打ちながら、許される限り一番近い距離まで近づいて、王宮の様子を伺った。

 中はプライアと同じく芝で覆われた庭園が広がり、その先に王宮がある形となっていた。

 しかし、此処は見たところ二階建てではない。だが、敷地自体はこちらの方が幾分か広い。

 王の下へたどり着くには、王宮を突っ切っていかなければならないようで、衛兵との戦闘は避けられそうも無い。

 門以外のところは、観光客に見せ付ける為か、城壁ではなく柵状になっており見晴らしがいいため、どこから入っても門番に見つかってしまうだろう事は容易に想像ができた。

 これなら、城壁の方が逆に進入不可という固定観念により注意を削げるため、入り易かっただろう。

 アカツキは、一通り見終えると、門番に「ありがとうございました」と別れを告げて、庶民街へと向かった。


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