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The Story of Ark -王無き世界の王の物語-  作者: わにたろう
第十五章 自由を求める者たち
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決意と希望の一歩


「どうした、そんなに懐かしいものを引っ張り出して来て」


 電灯が夜の街を点々と照らすとある町の一角。賑やかとまではいかないが、寂しさを感じることのないこの町の酒場の席に二人の女性が佇む。

 一人は褐色の肌に、腰まで垂れる藤色の髪を一つに束ねている。その褐色の肌の頬には、大きな傷が刻み込まれ、痛々しさを禁じ得ない。だが、それも遠い過去の話だとでも言うように、涼しい表情を浮かべながら向かい合って座る女性に声を掛ける。


「引っ張り出してなんかいないよ。私はあれからずっと、これを手放したことなんてないんだもん」


 向かい合う女性は、昔は長く伸びていた薄桃色の髪はバッサリと切り落とされ、あの頃の大人しさは何処へ。それでも、細く綺麗な顔立ちはあの頃と変わらず、若草色の瞳はどこか哀しみを帯びた鋭さが、彼女の雰囲気を大きく変えていた。


「それもそうだな……」


 どこか飲み込み切れない返事を返しながら、褐色の女性は机の上に置かれたグラスを口許へと持っていく。喉を焼きながら通っていくその液体で、吐き出しきれなかった言葉を流し込むように。


「あの日私たちが失ったモノは多すぎるんだよ。忘れられる訳がない。手放せる訳なんてないんだよ」


 その紙に、彼女はいったいどれだけの思いを詰め込んでいるのだろうか。自分が何もできなかったことを後悔して、どれだけ涙を流したことだろうか。それは、親友である彼女ですら知る由もない。

 だが、既に皺くちゃになったその紙に、彼女の思いがどれだけ刻まれているかは言うまでもないだろう。


「サクラ、過去ばかり見ていては、先には進めない。忘れなければならないこともある」


「ナズナは忘れられるの?あの日失ったみんなのことを」


 突然顔を上げた勢いで、『サクラ・アンネローゼ』の透き通った桃色の髪が揺れる。彼女の持つグラスは小刻みに震えており、彼女のぶつけようのない思いが水面を揺らしている。


「忘れられる訳などないさ。どれだけいがみ合っていたとしても、あいつは大切な仲間だった。それに、いがみ合う相手がいなくなるのは寂しいものだ」


 サクラとは対照的に、『ナズナ・アルケミスト』は哀しげな表情を浮かべながら視線をグラスへと落とす。今は亡き仲間を思うと、得も言われぬ思いが胸を締め付ける。どれだけ酒で喉を焼いても、その思いだけは流れ落ちてはくれない。


「あの日突然、みんながいなくなっちゃったんだもん。毎日一緒にいて、笑い合っていたはずなのに、気付いたらどこを探してもいないんだもん」


 多くの仲間が突然自らの日常から消えてしまった。まるで、自分だけが非日常に迷い込んでしまったような違和感に、自分の存在が虚ろに揺らいだ時もある。


「そうだな……。私は、少し誰かの死というものに慣れ過ぎてしまったのかもしれない。私はサクラほどの悲しみを抱くことは、もうできない」


 目の前の彼女のように怒りの感情を抱くことができたら、少しはこの胸の苦しみから解放されるのだろうか。吐き出すことのできない思いは、痛みとなって胸の中にしこりを残し続ける。じわじわと首を絞めつけるような、逃れられない痛みを残して。


「そんなの嘘だ。ナズナだってちゃんと苦しんでる。だって、本当に何も思っていないなら、そんな顔するはずがないもの」


 そう言われて初めて、自分が哀しみに溺れた表情を浮かべていることに気付く。

 自分ではいつもと変わらない、平然とした表情を浮かべていたつもりだった。けれど、グラスに映る自分の表情は、確かに哀しみと痛みが刻まれていた。


「そうかな……。私にもまだ、そんな心が残っているのだろうか……」


 ナズナは思わず自分の胸の辺りをギュッと掴む。サクラにそう言われなければ、ここがこんなにも悲鳴を上げているなんて気づきもしなかっただろう。

 自分は自分を偽ることが上手くなり過ぎた。だから、自分でも気づかない内に、その思いが溢れ出して自らの外へと逃げ出そうしていたのだ。偽れていたのは、自分自身だけだった。


「当たり前だよ。忘れることも、捨てることもできないよ。私たちが生きている限り、心が無くなってしまうことなんてない」


 彼女が真っ直ぐに告げる言葉に何度助けられてきたのだろうか。自分は多くの人に手を掛け、最早化け物と呼ばれてもおかしくはないところまで脚を突っ込んでしまっている。けれども、そんな自分を彼女は人であると認めてくれる。


「ふふ……、あはは……」


 それでも、真面目な顔でそんなことを言うサクラがなんだか可笑しくて、ナズナは思わず笑みを零しながら吹き出してしまう。


「何よ、突然!?私、そんなに変なこと言った?」


 本当はただ涙を隠したいだけなのに……。


「いや、悪かったよ。私もサクラに何かを諭されるようになってしまったとは、と思ったらつい可笑しくてね。悪気はないんだ、許してくれ」


 そう言うと、サクラは頬を膨らませて少し幼げな表情を浮かべながらこちらに訴えかけてくる。こういう仕草を見ると、昔と何も変わらないのだと、どこか安堵の気持ちが胸を暖める。


「酷いよ、ナズナ。こっちは真面目に話をしているって言うのに。そりゃ、私がナズナに出来ることなんて、数えるほどしかないけどさ……」


 そう言いながら口を尖らせて視線を遠くに向ける。こうやって、自らの感情を表情に出せる彼女の素直さは羨ましいと思う。いつの間にか、重荷を背負わなくてはならなくなったにもかかわらず、変わらぬ素直さを持ち続けられる彼女は見習いたいと思うことも少なくはない。


「そんなことないさ。今ではサクラの方が、出来ることも多いんじゃないか?」


 先程までの幼い表情は既に鳴りを潜め、大人びた彼女の視線がナズナを射とめる。その視線に思わず笑みは殻に閉じこもり、奥歯を噛みしめたような表情が浮かび上がる。


「それこそ、そんなことないよ……。私ができることなんてたかが知れてる。私にもっと勇気があれば、もっと多くの人たちを守れるのにね」


 サクラの辛そうな表情を見て、思わずそんなことを口走った自分に嫌気がさした。サクラが今の自分をよく思っていないのは知っていたはずなのに。自分はどれだけ無神経なのだろうか……。


「すまない。あまり私の発言を気にしないでくれ。サクラはそのままでいいと思う。私は今のままのサクラが好きだ」


 何の考えも無しに、そんな言葉を口にしたナズナ。そんなナズナの言葉を聞いたサクラの表情から色と言うものが消える。


「ん、何かおかしいことでも言ったか?」


 サクラのその反応に違和感を覚えたナズナは思わず本人に尋ねる。サクラは相変わらず無表情のまま瞬きを繰り返している。


「だって、突然ナズナが好きだなんて言うから。私の聞き間違いかと思って……」


「いや、そんなに珍しいことだったか?確かに、あまり口にはしないが……」


「すごく珍しいよ。っていうか、初めて聞いたかも」


「そうやって改めて言われると、なんだか恥ずかしいな……」


「わあ……、恥ずかしがってるナズナも珍しい」


「止めろ……、もう腹も膨れたし、そろそろ店を出るぞ」


 ナズナには珍しく、頬を少しだけ紅潮させて視線を泳がせながらわざとらしく音を発てて席を立つ。そのまま、不貞腐れたようにづかづかと店の外へと歩いていく。


「ああもう、待ってよナズナ。あっ、店長さん、ここにお代置いて置きますね。ごちそうさまでした」


 ナズナに置いて行かれないように急いで席を立ちながら、店長に頭を下げながら感謝の言葉を告げる。そういう律儀なところは変わらない。

 変わったのは、彼女を取り巻く環境だけだ。彼女はきっと変わってなどいない。ただ、自分がそう信じたいだけかもしれないが……。


「もう……、待ってってば」


 冷たい夜風が吹き付ける海沿いの街路。その柵に肘を掛けながら先に店を出たナズナはサクラを待っていた。夜風が少しの酔いと火照った身体を優しく撫でていく。


「こうして待っているだろ。大体、サクラを独りにする訳ないだろ」


「まあ、それはそうなんだけど……」


 そういうことじゃないんだけどな、と少し寂しそうな表情を浮かべるサクラを見て、ナズナは小さな笑みを浮かべながら月明かりに照らされた海辺を眺める。


「わかっている。私もそういう意味で言った訳じゃない。それでも、お前がそういう立場にあるということは忘れちゃならないんだ。お前の軽率な行動が、私たちをあの地獄に再び突き落とすかもしれないのだから」


 そう、昔のように好き勝手に外に出歩いたりできるような身分ではないのだ。あの大戦の後、多くの者の顔が割れ、レジスタンスは更に肩身が狭い思いをしなければならなくなっている。

 その中でもサクラは非情に重要な人物として挙げられてしまっている。今いる場所は無法地帯だからまだいいが、それでも常に緊張感を張り続けなければならないのも事実だ。


「そうだね、あれから戦いなんて一度もないから、このまま平和に過ごせるのかもって、ちょっと気が抜けてたかもね。でも、そろそろ気を引き締めなきゃ」


 あの頃の日常が今では非日常となってしまった。本当は日常なんて無いのかもしれない。ただ、慣れ親しんだ毎日が当たり前だと思っているだけで、気付いた時にはその日常から見捨てられている。


「ああ、そうしてくれると、私も付き人の身として助かるよ」


 サクラにこんな接し方はしたくはない。彼女は唯一無二の友人であり、自分が心を許せる数少ない仲間だ。だから、堅苦しい身分や組織の関係性などは二人の時くらい捨ててしまいたい。それでも……。


「ありがとうナズナ。私も覚悟を決めるよ。戦う覚悟を……」


 本当は彼女に戦わせたくなどない。笑顔を振りまいて、皆の帰る場所となっていたサクラが好きだったから。けれど、そんなことを言っている余裕などないくらいに、今のレジスタンスは崖っぷちに立たされている。


「じゃあ、行こっか」


 これは自らが望んだ未来ではない。自分が何の為にここまで戦ってきたのか、今ではもうそれすらもわからなくなっている。けれど、この光だけは失う訳にはいかない。それだけが今の自分が生きる意味なのだから。

 だから、これから先何があったとしても、自分は彼女を守ろう。例え、彼女が自分の手の届かない人間になってしまったとしても……。


「はい。レジスタンス幹部、サクラ・アンネローゼ殿」






 とある山奥に流れる川から雪崩れるように流れ落ちる滝の下。静かな木々の合間を誇示するかのように響き渡る轟音。一人の青年が座禅を組んだまま、殴られるように流れ落ちる水の塊をものともせずに佇んでいる。

 その青年の髪はまるで目覚めの太陽の光のように白く透き通った銀髪で、身体は歴戦の戦士のように大きな傷跡を残しており、華奢な身体を鎧のように守る筋肉が目で見てもはっきりとわかる。

 幼かった頃の雰囲気は最早影も無く、髪はすっかり長く伸びて肩を越える程になっている。身長もあの頃から頭一つくらいは伸びたお陰で、幼さはあの日の戦火によって灰燼に帰したようだ。


「ここにいたか」


 水が身体を打つ音でその声は掻き消されていく。そもそも、こんな人里離れた所に他の人間がいるものだろうか。それでも、突如掛けられた声に青年は片目だけを薄く開く。そして、自らの目の前にいる珍しい男を見て、思わず目を見開いてしまう。


「あだだだだだ。目が、目があああああ」


 勢いのあまり水が目に襲い掛かり、網膜が焼かれたような痛みが走る。これまでの静かで研ぎ澄まされた雰囲気は彼方へと消え去り、何処か懐かしい騒がしさが辺りを包み込む。


「ちょっと、驚かさんといてや。お陰で、片目が見えんくなったわ」


 眉から頬にかけて流れる傷跡を指差しながら、銀髪の青年は訪れた青年に向けて愚痴を漏らす。確かに、痛々しい傷ではあるのだが……。


「それは今に出来た傷じゃないだろうが……。大体傷はあっても、お前の片目は全然見えてるだろ。勝手に俺のせいにするんじゃない」


 そう言われた銀髪の青年は、閉じていた片目を指で広げて、あっかんべをするように舌を出す。

 彼と言葉を交わす青年は、透き通るような茶色い髪に、空のように全てを見透かす群青色の瞳。その腰には美麗な装飾の施された剣が一振り携えられている。印象的なのは、額に嵌められた金色の円環。


「いやあ、お兄様が突然出てきたら誰だって驚くて。それなりに有名人やし」


 そう、そこに立っていたのはこの世界に住む者なら誰もが知る有名人。この世界の中心にしてこの世界を支配する帝国、ガーランド帝国の騎士団長『アスラン・レインズ』その人だ。


「だからお兄様と言うなと言っているだろうが、気持ち悪い。大体な、お前が勝手になっただけで俺は未だにお前のことを認めたつもりはないからな」


「え~、そんな意地悪なこと言わんでもええやん。僕とお兄様の仲やろ」


 滝の下から離れた銀髪の青年は濡れた頭を布で拭いながら、水で濡れた岩の上を、バランスを崩すことなく静かな足取りで降りてくる。ふざけていながらも、その足取りにはどこか洗練されたものを感じる。


「あまりふざけていると、せっかく持ってきてやった朗報を告げずに帰るぞ」


 虫の居所を悪くしたアスランから鋭い視線を向けられる。どれだけ剽軽な青年も、この視線だけは苦手である。殺気は感じなくとも、胸に刃を突き刺したような痛みが身体中を走るのだ。それも、歴戦の戦士であり真の強さを知る彼だからこそできる所業。


「わかったて、もう言わへん。それで、なんでわざわざこんなとこ来たんや?師匠に用でもあったんか」


 頭を乾かした青年はその布で上半身を拭い、木の枝に掛けられた衣を上から羽織る。未だに湿った髪が男にも関わらず、どこか艶めかしさを感じるのは、どれだけ筋肉を付けても消えない華奢な身体つきのせいだろうか。


「だから、お前に朗報だと言っているだろうが。今回は師匠には用は無い」


 一時の沈黙が訪れる。まさか目の前の青年が本当に自分だけに用があるなど思いもしなかった。せせらぎは轟音に掻き消され、滝の音だけが辺りを満たす。


「僕だけに用って初めてとちゃう?そんなに大事なことなんか」


「ああ、流石にお前の耳にだけは入れといてやらんと可哀想だと思ってな」


 そう言いながら、アスランが背中から渇いた布を取り出し銀髪の青年に投げ渡す。


「お、優しいやん。それで、僕が可哀想なことっていったいなんや?」


「お前が可哀想などと言ってないだろうが。どうやって聞いたらそうなる」


「まあまあ、それくらいの冗談で怒らんといてや」


 この青年と会話しているとどうも調子が狂うといったように、険しい表情を浮かべるアスラン。だが、青年との会話が苦手だからと言って、実は嫌いな訳ではないのだ。本人言えば調子に乗ること請け合いなので絶対に口にしないが。

 一度呼吸を整えるように咳払いをすると、アスランは再び表情を固めて彼に告げる。


「奴が帰ってくる」


 名前も告げられなかったその相手を、しかし銀髪の青年は一瞬で誰のことであるかを理解する。それは三年間待ち続けた言葉であり、胸の奥に弾けるような熱が込み上げるのを感じる。


「ようやくか……」


 目をキラキラと輝かせながら拳を固く握りしめ、その拳をジッと見つめる。


「今更戻ってきて何のつもりだろうな」


 そう告げるアスランの表情は銀髪の青年とは打って変わって険しく、どこか痛みを感じる表情が浮かび上がる。その表情からも彼が奴のことを良く思っていないのは想像に難くない。


「まだ怒ってるんか?もうええやろ、怒る理由も無くなったんやし」


「そんな訳があるか。殺したいとまでは思わんが、それでも文句の一言、二言は言わんと気が済まん」


 普段公の場にアスランが顔を出すときに、こんな豊かな表情を見せることはない。それは、彼もこの数年間で少しは自分に気を許してくれるようになったということで。それが、どこか嬉しくなった青年は思わず小さな笑みを零す。


「その後で一発くらい殴らんと気が済まん、って顔してるで」


 アスランはふんっと鼻を鳴らしながら瞼を閉じ、「当然だ」と独りでに頷く。それでも、いつかの遠い記憶と比べれば、奴を思い浮かべても抑えられない衝動に駆られることはなくなった。

 奴が本当に悪いわけではないことはどこかで気付いていたし、本当はそれを許せない自分に一番腹が立っていたのだ。


「それにしても、ようやくか……。あれから三年、ずいぶんと長かったな」


 銀髪の青年は過去の記憶を探るように遠くに視線を向ける。楽しい思い出も、哀しい思い出も、辛い思い出も、色褪せることなく一瞬で脳裏を過っていく。それくらいに、青年の中で大きな存在になっているのだ。


「その三年のせいで、俺にはお前のような小虫がついてしまった訳だがな」


 感傷に浸っている青年を茶化すように、アスランが愚痴を漏らす。けれど、先程の痛みの刻まれた表情はもうない。


「小虫はいくら何でも言い過ぎやろ。まあ、力量の差で言ったら、それくらいに言われてもしゃあないかもしれんけど」


 三年の間に彼も見違えるほど強くなった。変わったのはもちろん見た目だけではない。中身はそこまで変わっていないかもしれないが、それでも多くの者の力を借りて彼も高みを目指した。いつか来るその時に向けて。

そしてようやく、 その時が訪れようとしている。長く待ち望んだ、彼との再会の時が。


「じゃあ、ここでの修行もようやく終わりやな。師匠が寂しがるんやろなあ」


「あの人はお前ごときがいなくなったくらいで何も思わないから心配するな。安心してあの家を出ていけ。その前に、師匠はお前のことを弟子とも思ってないだろうからな」


 アスランにそう言われた銀髪の青年はあからさまに気を悪くしたように口を尖らせる。だが、正直そう思われていてもおかしくないのが事実だから怖い。諦めの悪い銀髪の青年は親指と人差し指で小さな隙間を作りながら。


「三年もおったんやから少しくらいは……」


「無いっ!!」


 最後まで言い切る前に一言で一掃されて、いじけると言うよりも落ち込んだように項垂れる。

 だが、そんな態度とは裏腹に、青年の本音はそこまで気にはしていなかった。別に永遠の別れと言う訳でもない。永遠の別れはもう十分に経験した。これ以上目の前でそんな哀しい光景を見ない為に、自分はここで強くなったのだ。

 だから旅立たなければ、ここでの三年間は嘘になる。旅立ち、彼と再会し、もう一度あの夢を追って初めて、この場所にいた三年間が報われる。

 だから青年は歩き出す。もう一度、彼と共に夢を追いかける為に。


「行くのか?」


「ああ。見とれよ帝国騎士団長。いずれ、僕らが真の王の座に就いたるんやからな」


「ふんっ……。まあ、期待せずに待っていよう」


「そう言っていられるのも今の内やで。絶対にあいつは強くなって帰って来る。あの日打ち砕かれた僕らの夢を、この世界の平和を、僕らが現実にするんや」


「その時は、場合によっては敵同士だな」


「まあ、それだけは遠慮しときたいとこやけど……。でも、もしそうなったら正々堂々ぶつかろうや」


「ほお、それは楽しみだな。よし、是非とも攻め込んできてくれ。返り討ちにしてやる」


「三年越しの旅立ちにあんま茶々いれやんといてえや」


「ふっ……、それもそうだな。じゃあ行って来い。お前たちの歩む未来がどんなものなのか、あの日、奴を愚王と呼んだ俺に見せてくれ」


「ああ、楽しみにしとけよ。絶対にしたる。あいつをこの世界の王様に!!」


 そして、銀髪の青年『ヨイヤミ・エストハイム』は新たな一歩を踏み出す。

 彼との再会を、彼ともう一度同じ夢を追うことを願いながら……。


ひとまず、二ヶ月ぶりにも関わらず読んでいただいた読者様、ありがとうございます。

いや、本当にお久しぶりです。ブクマとか減らなくてよかった(泣)。Twitterの方では少し説明したはずですが、新企画を立ち上げてしまい、そちらに時間が取られているので、文字数は書いているはずなのに更新ができないという結構辛い日々が続いております。はい、言い訳です……。まあ、言い訳はともかく、いずれ新企画は皆さまに届けられる予定ですので、それまで待っていただけるとありがたく思います。少しだけ本編に。ようやく後編が始まり、現在重要人物たちを一人ずつピックアップして書いている訳ですが、それぞれの関係が大きく変化しているので、その辺りを想像しながら、開始三話を読んでいただけると、楽しみ方も増えるかなと。まあ恐らくあと一話ピックアップ回が続く予定ですが、まだ一文字も書けていないのでわかりません。とにかく、新企画も進めつつ、こちらもなるべく更新をしていく所存でございますので、これからも暖かい目で見守っていただけると嬉しく思います。久しぶりに後書き書いたーーーー!!それでは、次話まで……。

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