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The Story of Ark -王無き世界の王の物語-  作者: わにたろう
第九章 兵どもの鎮魂歌
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軍事力の胎動

 再び、グランパニア場内。全ての席が埋まった白のテーブルを囲って、六人の資質持ちたちが話し合いを始めるところだった。


「アルベルト、今回の作戦の概要を話せ」


 キラがアルベルトに話を進めるように促す。アルベルトは、手元にあった羊皮紙を取り上げて立ち上がると、それに目を通しながら話を始める。


「はっ。今回の作戦は、これまでグランパニア傘下の国に膨大な被害を与えてきた、レジスタンスのリーダー、ウルガ・ヴェルウルフの討伐です」


 アルベルトは機械的に、羊皮紙に記された内容を読み上げていく。


「現在レジスタンスには、四人の資質持ちが存在しているとの情報を得ており、今回の作戦において、我々も四つの部隊を派遣するのが妥当である、と考えています」


 アルベルトの話を皆、様々な態度で聞いている。キラは何を考えているのかわからない無表情のまま、オウルはいつの間にか再び寝る体勢に入っている。ジェドは退屈そうに欠伸をしており、グスタフは腕を組んで目を瞑っている。シェリーは背筋を伸ばし、姿勢を正しながらこの会議に最も参加の意思をみせたていた。


「キラは王として、この国を離れることはできないと考えておいてください」


 その言葉にキラは鼻を鳴らしながら、言葉を漏らす。


「ふんっ。王という立場はどうも縛られていて敵わんな。俺は前線に立っている方が性に合っているのだが……」


 その言葉にわざわざ返すこともなく、アルベルトは話を続ける。


「今回の討伐目標は、それなりに実力の認められている相手です。なので、こちらもそれなりの戦力を用意したいと考えます。よって、第一、第二、第三、第五部隊を今回の作戦の実行部隊にしたいと考えます」


「我々の部隊が外された理由を一応は聞いておこう」


 ダグラスがアルベルトに尋ねる。その声音はとても落ち着いていて、外されたことに不満があるという訳ではなく、単純に外された理由を尋ねたいだけのようだった。


「全部隊が侵攻するとなれば、この国がガラ飽きになってしまいます。それでも、キラがいれば事足りるでしょう。ですが、国として王だけを残すという事態は避けたい。また第二、第五部隊だけでは実力が少々心許ない。そこで国の治安維持も含め、第四部隊はこの国に残留してもらいたいと考えています」


 ダグラスは腕を組んだまま深く頷くと、重々しく口を開く。


「了解した。善処しよう」


 アルベルトとダグラスがそんなやり取りをする中、ジェドが相変わらず軽いノリで尋ねる。


「それで、今回の目的地はどこなんだ?こんな大掛かりな作戦を立てるってことは、ようやく敵さんの尻尾を掴めたんだろ」


「今回の目的地は、バランチアです。確証の得られる情報も得ています。レジスタンスの潜伏先はバランチアで間違いないかと……」


 そこで不意にキラが疑問を口にする。


「だが、バランチアには何度か視察に入ったが、王からは結局事実確認はできていなかったのだろ。何故隠す必要がある?」


 その質問に対しアルベルトは小さく頷くと、すぐにその答えを述べていく。


「はい。バランチアは密かにグランパニアに反乱意思があったと考えられていましたが、こちらに被害がなかったため放置してきました。ですが、今回得られた情報とその反乱意思から、バランチアがレジスタンスの隠蔽に荷担しているという結論に達しました」


 これまで黙って周りの様子を覗っていたシェリーがここで口を挟む。


「要は、まだ確証が得られてないんじゃないのか?それで行ったら外れでした、何てことになったら目も当てられなではないか」


 その懸念は最もだ、と言わんばかりにアルベルトは深く頷くとそれに答える。


「ええ、それについては既に私の部隊からスパイを送っています。確証が得られるのは時間の問題かと……」


「まあ、ほぼ確定で間違いないだろう。だが、無所属国への侵攻となれば、またグレイの奴から圧力を受けることになるだろうな……」


 キラのその言葉に、ジェドが不満げな声音で尋ねる。


「その事なんだけどよ、なんでレガリアに直接攻め込まねえんでさあ?事あるごとに、レガリアから圧力を受けなきゃならねえってのは、俺としては我慢ならねえんですけど……」


「俺たちとお前たちのような縦の繋がりがあるように、俺とグレイにも横の繋がりというものがある。俺たち四天王は、そう簡単に戦争をする訳にはいかない。少なくとも、この程度で殺り合うことはない。だからグレイも、圧力だけに留まっているんだ」


「横の繋がりねえ……。俺たちにはわからない世界だな」


 話が横に逸れていたので、アルベルトは咳払いをすることで、話を元の路線に戻そうとする。


「それと、この作戦の決行にあたり、多少懸念される問題が……」


 話を無理矢理に切られたためにジェドの表情が歪んだが、キラは特に表情を変えることなく、無表情のままアルベルトの言葉に相槌を打つ。


「何だ……?」


「はい。ここ最近で、よく耳にする国をご存じでしょうか?ルブルニアという国なのですが、ここ一年足らずでグランパニア傘下の国との戦争にいくつも勝利している国があります。特に幹部国である、ベオグラードのイシュメルを倒したという噂は、皆さんの耳にも入っていると思います」


 少し不満そうにしていたジェドが、一気に表情を変えてアルベルトの言葉に喰いついた。


「おお、知ってるぜ。イシュメルの旦那、死んじまったんだってな。それをやったのが無名の国だっていうから、そりゃもう驚いたぜ」


「それは知っている。それで……?」


 アルベルトはキラに先を促されて、急いで話を進める。


「彼らはこれまで自分たちから戦争を仕掛けているという事実はありません。全て、こちらの傘下の国から仕掛けた戦争です。ですが、彼らがこれまで戦争に勝利をした国に求めている代償は、奴隷の解放です」


「それだけなのか?」


 そこであまり話には参加していなかったシェリーが驚きのあまり、口を挟んでしまう。


「細かく言えば他にもありますが、国の領土や王権の要求は一切ないようです。その事実から考えられるのは、彼らが求めているのは奴隷制度の撤廃。つまりそれを推奨している、グランパニアへの侵攻が考えられます」


 キラの代わりに尋ねようと言わんばかりに、シェリーは真っ先に自らの疑問を尋ねる。


「それが、懸念される問題か?だが、奴らは自分たちから戦争を仕掛けることはないのだろう?」


「これまではそうです。ですが、それを鵜呑みにして、これからもこちらに攻めてくることはない、と考えるのは早計かと……。ですから、あくまでも懸念されるとだけ申し上げました」


 腕を組んだまま目を瞑り、口を噤んでいたダグラスが、ここでようやくその眼を開く。


「奴らは、我々がレジスタンス討伐作戦に四つの部隊を派遣すると知れば、その隙を狙ってこちらへ攻めてくると……、そう言うことが言いたいのか?」


「そういう可能性がある、としか……」


 それを聞いたジェドが嘲るような笑い声を上げる。


「ははは……、めでてえ奴らだな。俺たちがいようがいまいが、キラ一人いれば事足りるだろ。自分達との力量の差も計れねえ奴らが、グランパニア相手に戦争とは、笑えるぜ」


「俺としてはむしろ、攻めてきてくれた方が面白いのだが……。ん……?」


「どうかされましたか?」


 キラが考えるように言葉を止めたことを疑問に思い、アルベルトはすぐさまキラに尋ねる。


「いや……。そういえば、ちょうどその頃に面白いものがあると思ってな」


「なんだよ、面白いものって?」


「帝国軍の視察だ」


 その言葉に反応したのは意外なことに、ダグラスだった。


「つまりあの御方が来られると?」


 そんなダグラスの言葉にジェドが苦笑を漏らす。


「あの御方って……。ダグラスの旦那、相変わらずあいつの事を尊敬してるんですか?あいつの方が旦那よりも余程年下でしょう?」


 ジェドの苦笑をダグラスも苦笑で返す。


「人を尊敬するのに年齢など関係はあるまい。己の進む道で、己よりも優れた者を尊敬するのは必然である。いずれ、お前にもそれがわかる時が来よう」


 ふ~ん。と、ジェドは鼻を鳴らすように相槌を打つ。


「そんなもんですかねえ。まあ、俺には関係ないからいいんですけど……。それにしても、確かにそりゃ面白いな。マジで攻め込んで来たとすれば、ルブルニアって奴らは相当に運がないらしい」


 ジェドは再び嘲笑すると、キラが一枚の羊皮紙を懐から取り出す。


「それはそうと、俺はルブルニアの国王に会ってみたい」


 キラが他人に興味を示すなどということはとても珍しく、アルベルトは思わず尋ねてしまう。


「それは、何故です?」


 その問いかけに、キラは面白そうに小さな笑みを浮かべると、その羊皮紙を他の五人に向けて見せる。五人はそれを覗き込むように見るが、それを見ただけではキラがどうして興味を持つのかは理解できない。


「こいつはシリウスの孫だ」


 その言葉に、四人が驚愕の表情を浮かべる。彼らは一人残らず、その名を知っていた。

 そして、今まで頭を伏せて、一切会話に参加してこなかったオウルですら、その顔を上げ、そして目を見開いてその羊皮紙を喰いつくように眺める。


「ってことは、シリウスの孫もまた、資質持ちだったってことか……」


「ああ、そういうことになる。あの頃はまだ、そんな情報はなかったがな……」


 キラの言うあの頃が何時なのかは、はっきりと言われなくてもわかっている。それに、これで一つの疑問の解答が出た。


「なら、俺がそいつの力を目覚めさせたってことか……。そしてあの日、他の兵が帰って来なかった理由……」


「可能性は高いな……。まあ、王の血族だ。お前が手を加えなくとも、いずれは覚醒していただろう」


 そんなキラの他愛ない言葉に喰いついたのは、オウルではなくジェドだった。


「王の血族か……。なんか、格好良いっすね。まあ、祖父がシリウスってことは、父親はあの人ですか。そりゃもう、王の血族と言うしかないっすね。まあ親の七光り、とも言えるかもしれないっすけど」


 ジェドがそう言うと、意外なことにキラはそれを否定する。


「いや、奴が親の七光りでないことは既に奴自身が示している。何故なら、既に四人の資質持ちが、そのルブルニアという国に存在しているらしい。資質持ちをも従わせる王の中の王。奴は自らそれを実証している」


 その言葉に対し、ジェドは堪えきれなくなったように吹き出す。


「はは……。王の中の王か……。あんたがそれを言っちまったら、ただの皮肉にしか聞こえねえよ」


「それに関しては同意だな。キラ、その王の中の王のあなたですら、真の王にはなれていないのだ。そう軽々と王の中の王、などという言葉を使わない方がいい」


 珍しくダグラスがジェドの意見に同意する。それにはキラも苦笑を浮かべざるを得ない。


「わかった……。訂正しよう、失言だったと……。だが、それでも奴が七光りではないことはわかっただろう?だからこそ、会ってみたいのだよ。七光りではなく、王の血族の力がどんなものなのかというのを……。残念ながら、奴の父親とはもう戦うことはできなそうだからな」


 キラがそう言った瞬間、オウルを除いた四人が緊張の面持ちで、引き笑いを浮かべていた。


「さすがにそれだけは、起こって欲しくないですね……。参謀としての仕事が全うできそうにありませんから……」


「俺もそれはかんべんな。色々と面倒そうだし……」


「私も同意見だ」


「それは流石に私も……」


 皆が口を揃えて同じ意見を述べる。この軍が発足しこの五人が部隊長になってから、四人の意見が揃ったことなど数えるほどしかなかったので、キラは可笑しかったのか珍しく笑みを浮かべる。


「ああ、流石にその未来は避けよう……。よし、それ以上に報告はないか?」


 その問いかけに、アルベルトが静かに挙手をする。キラが顎でアルベルトに促すと、アルベルトは一度咳払いをして口を開く。


「その、ルブルニアについてのことなのですが……。先程キラがおっしゃられた四人の資質持ちの中にガリアスがいるとの情報が入っています」


 ほう。と感心するような相槌を打つとキラはアルベルトに尋ねる。


「一段と会ってみたくなった……、というのは置いておいて、それならば今のノックスサンはどうなっている?」


 ガリアスが抜けたノックスサンなど、宝を盗ってくださいと言わんばかりに、庭先に放ってあるようなものだ。


「そのことですが、ノックサンからは何の報告も来ていません。おそらく、その事実を隠蔽しようとしているのかと……」


「そうか……。まあ、今はそんなことに割いている時間もない。全てが終わり次第、ノックスサンの視察にでも行くことにしよう」


 その言葉にアルベルトは「はっ」と返事をすると、これ以上何もないと言うように黙って席に座った。


「さて、もう一度聞くが、これ以上は何もないな?」


 五人は俯いたまま、無言の返事をする。彼らの返事を受け取り、キラはスッと席を立ち上がる。


「なら会議は終わりだ。では解散…」


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