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空色サプリ  作者: おじぃ
取り残された望

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69/70

蝉時雨が移ろう頃に

 少し風が涼しくなって、寒蝉つくつくぼうしが鳴く夏休み終盤。午前だけ予備校に行き正午、私は駅のロータリー前からコンコースへ続くエスカレーターに乗り、改札口に差し掛かった。


 駅構内は人で溢れかえっている。夏休みは観光客も多い茅ヶ崎ではよくある光景。ただきょうは少し事情が違うようだ。


『ただいま東海道線は人身事故のため上下線で運転を見合わせております。ご利用のお客さまにはご迷惑をおかけいたしまして申し訳ございません』


 響く放送。改札内の電光掲示板には『快速アクティー 遅れ60分』などと表示されている。


 人身事故の原因は様々だけれど、真っ先に浮かぶのは、自殺。


 生きたくても生きられない命があれば、生きたくないから絶つ命もある。


 生きたくても生きられない可能性が高い命を救いたくて医学部を目指している私はそれに対して贅沢だとか、命を無駄にするなとは思わない。ついでにいえば、死ぬなら迷惑かけないように死ねとも思わない。


 医学部……。


 理解はしている。


 学業の成績が奮わず、医師になるどころか医学部へ進学できる可能性が極めて低いことは。


 けれど、あきらめたらこれまでの努力は泡沫うたかた


 今更歩みを止められるか。


 けれど私に医の能はない。


 交差する感情と実情。


 人の間を縫って、怪しげな路地を抜け、狭い高砂たかすな通り。


 吸い寄せられるように、図書館に来ていた。


 図書館という場所は意外に騒がしく、落ち着いて読書をできそうにはない。私はちらちらと『坊っちゃん』などをめくってみた。


 東橋くんに誉められた、作詞の才能。


 彼が大したことないだけ。


 それも理解しているけれど、満更でもなかった。


 図書館を後にして、まだ茶と緑が合唱する松の帳を抜け、歩道もない狭い道を南下する。


 ようやく歩道が現れると、そこはサザンオールスターズがライブをした野球場。


 サザンオールスターズ、国民的バンド……。


 野球場の傍を歩きながら、彼らの楽曲を浮かべ、歩道橋をゆっくり上がる。


 彼らの音楽に救われている人は、きっとけっこう多い。


 そう、音楽には、命を救う力がある。


 歩道を上がりきった。


 地上では松の砂防林に遮られて見えなかった煌めく大海が、眼下に広がっていた。

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