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空色サプリ  作者: おじぃ
父の思い出

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60/70

父が最後に教えてくれたこと

 わたしの願いは、届かなかった。


 お父さんは、お空の向こうに旅立っていった。


 握る手の力はとうになくて、潤んだ目が細くなっていって、日付が変わるころ、静かに、しずかに、旅立っていった。


 11歳のわたしは当時、もう会えなくなる事実を、いまいち受け止められなかった。


 だからお葬式でも、涙は出なかった。


 死んじゃった。だから、せっかく帰宅したお父さんが天国に行けるよう、お線香を何本も焚いた。煙の少ないお線香だったから、道に迷わないように、何本も。


 もし18歳になった現在のわたしが誰か大切な人を失ったら、‘その時点’でもう、冷静ではいられない。


 葬式は、市内の斎場で執り行った。たくさんの人が来てくれた。たくさんの人が、泣いていた。


 わたしは、泣かなかった。


 火葬して、骨になってもまだ、泣かなかった。


 2週間後、砕骨さいこつして墓石に納骨する日が来た。


 市内北部の坂の途中にある墓地。すぐ脇に国道と交差する道路があり、周辺には住宅や寺院がある。


 親族や友人、秋穂ちゃんも来て、十名で墓石を囲う。


 お坊さんが骨覆いから骨壺を取り出し墓石の台部分に置くと、ハンマーを持った。


「それでは、失礼いたします」


 言ってお坊さんはハンマーを振り上げ、お父さんの遺骨が入った壺を叩いた。


 コンッ、パキンと壺が割れると、遺骨が露出した。


 大きな頭蓋骨。これがお父さんなんだと実感は湧かなかったけれど、頭では理解していて、もうそれを心は受け入れていた。


 そして頭蓋骨が、粉砕された。


「あ……」


 お父さんが、影も形も、無くなっちゃった。


 辛うじてお父さんの面影があった頭蓋骨が粉砕された。この瞬間、お父さんの姿は、この世から無くなってしまった。


 実感すると呼吸が荒くなってきて、心臓がバクバクして、思考が停止した。


「ああ、うああ、ああああああ!! お父さん!! いやああああああ!!」


「彩加!?」


「彩加ちゃん!」


 泣き叫び取り乱す私に驚いたお母さんと秋穂ちゃんが寄って来て、肩に手を添えてくれた。普段は穏やかな私が壊れるさまを見て、驚いているようだった。


 お坊さんは手を止めて、それ以上砕骨をしなかった。


 泣きながら、態度とは裏腹に、安心している節もあった。


 ああ、わたしも他の人みたいに悲しみに暮れて泣けるんだ。涙が出るまでの耐力が他の人より強いだけなんだ。


 もしかしたらお父さんは、最後にそれを、私に教えてくれたのかもしれない。


 のんびりまったりの彩加にも、悲しみの感情がある。人間らしさはちゃんとあると。


 お父さんの死から月日が流れて落ち着いてきたわたしは、以前ののんびりまったりな自分に戻っていった。


 でも、ただまったりのんびりしているだけではなくて、悲しみや痛みの感情を少しばかりは理解できる、落ち込んでいる人に少しくらいは寄り添える自分になれた。そんな気がするのだ。


 お父さん、遊びも、気持ちも、大切なことを教えてくれて、ありがとう。


 感謝を込めてわたしはきょうも、仏壇の前で線香を焚き、手を合わせるのであった。

 お読みいただき誠にありがとうございます。


 更新大変遅くなり申し訳ございません。次回から18歳になった彩加たちの日常が再び始まります。

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