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空色サプリ  作者: おじぃ
茅ヶ崎の夏休み

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此の世が終焉に向かってる

 暑さで疲れが溜まっているのか、2時間経っても響ちゃんと大騎くんはスヤスヤ眠ったまま。少し涼しくなってきたと思ったら、空がみるみる曇ってきた。それでもお構いなしに、セミたちは鳴き続けている。


 やがて雨が降ってきた。土砂降りじゃないけど、少し大粒の雨。


 築30年以上、お父さんが他界して家賃を抑えるため7年前に越してきたこの部屋では、湿度の変化で柱が軋む音や、ポタポタ落ちる雨粒が屋根に当たる音がする。


 その心地良い音にわたしもお昼寝をしたい気分だけど、眠くならない。


 ちょっと勉強でもしようかな。


 勉強嫌いとはいえわたしも受験生。毎晩少しくらいは勉強する。


 居間の隅、薄暗い蛍光灯と卓上用LEDライトが照らす、お父さん手造りの脚とベニヤをネジで留めただけで本棚もない勉強机に向かう。


 その度に、昔のことを思い出す。ほかの子みたいにキャラクターのマットが付いた学習机が良かったと泣き喚いた幼稚園卒園間近のこととか、梅の花咲く木の下で額にタオルを巻いて、寒い日なのに汗を垂らしながらのこぎりで木材をカットしていたお父さんのイキイキとした姿とか。そのほかにも、芝生の公園で友だちと走り回ったり、キャッチボールをした記憶などなど。


 大切な大切な時間が甦る、大嫌いで仕方なかった勉強の時間。


 そういえばあのころはよく、秋穂ちゃんに宿題を手伝ってもらったり、勉強を教えてもらっていた。わたしのほうが上級生なのにね。


 おかげで成績はぐんと上がったけど、勉強しながら昔のことを思い出しているあたり、相変わらず集中力はあまりないのだと思う。


「あーもうだめだー」


 暑さによる疲れもあって、勉強は5分でリタイア。机に突っ伏した。


 お父さん曰く、無駄に思える学問が実は大人になって役立つことが多く、あのときちゃんと勉強しておけばと何度か言っていたけれど、やる気が出なけりゃ仕方ない。


「何がもうだめなのぉ」


 わたしの独り言で目を覚ました響ちゃんが身を起こし、あぐらをかき目を擦っている。


「うーん、此の世のすべてかなぁ」


「そっかぁ、生きづらい世の中だもんね」


「おう、どうしたんだよ、ロックな会話しちゃってさ」


 大騎くんも目を覚まし、あくびをしながらふわふわ言った。


「思ったことをそのまま言葉にしたらピンときたんだ。此の世が終焉に向かってるって天が囁いたんだよ」


「彩加先輩、そういうことも考えるんすね」


「ん? どして?」


「なんつーか、いつも能天気な感じがするんで」


「そうだね、でも能天気だけじゃ、誰かが苦しんでるときに追い詰めちゃうでしょう?」


「そうっすね、落ち込んだときに夢とか希望とか世界は輝いてるとか能天気な言葉をかけられると余計に沈むっす」


「でしょお? わたしはポジティブに生きても、闇とか悲しいこと、負の感情をちゃんと理解してる人になりたいんだ」


「さすがっすね、俺もそんな人間になって、心にグッとくる音楽を作りたいっす!」


「作ろうよ! グッとくるの! ていうかうちら、そのために集まってるんじゃん!」


 と言ったのは響ちゃん。そうそう、そうだった、曲を作るために集まったんだった。


「俺はぐつぐつ湧いてきてるぜ! だがなんつーか、三人だけじゃサウンドがしょぼい」


「スリーピースバンドじゃ大騎くんのソウルは伝えきれないか」


「あぁ、そうだな。サウンドのボリュームもだが、曲のバリエーションも欲しい。十人十色のソウルにピンポイントで効く音楽を作りたいんだ」


「わぉ、すごいこと言うね。てっきり望くんと秋穂ちゃんをメンバーに加えて楽器をやらせようと目論んでるだけで実行には移さないと思ってたよ」


「チッチッチ、甘いぜ響ちゃん、音楽を作る資格も歌う資格も誰にでもあるんだぜ?」


 うわぁ、大騎くん、一人で勝手に話を進めてるなぁ。引っ込み思案な望くんと秋穂ちゃんはオッケーしてくれるかな? しかもあの二人は勉強熱心だから「勉強があるから」の一言で断られる気もする。


 でも、実現したら面白いと私も思う!


 大騎くんも響ちゃんも、音楽家としての視野が広がりそう!


 それで私も「こんな曲を求めてた」って、誰かに思ってもらえる曲を作りたい!

 お読みいただき誠にありがとうございます。


 更新遅くなり大変恐縮です。


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