キュウリとナス
目が覚めると、響ちゃんと大騎くんはまだスヤスヤと気持ち良さそうに寝息を立てていた。近くで一頭のアブラゼミが鳴いている、心地よい夏の午後。
台所と一体になっている玄関から、一旦外へ出た。蒸し蒸ししているけれど、ほんのり涼しい風が吹いている。近くに川があるからか、この一帯は市街地よりほんのちょっとだけ涼しい気がする。
家の裏に置いてある黒土がいっぱいに入った発泡スチロールの箱。20センチ四方。それをよいしょと持ち上げて、玄関へ運ぶ。ドアノブを開け、腕で扉を押さえる。足を挟まれてケガをしないようにそーっと家に入って、カチャリと努めて静かに扉を閉め、ロックした。
扉の左側が空いているので、そこに黒土入り発泡スチロールの箱を置いた。これは毎年ここに置いている。外に置いておくとカラスに食べられちゃうし、お家に入れておいたほうが歓迎してる感が増す。
これからここに、キュウリの馬とナスの牛を置く。お盆時はこうして、天国へ旅立ったお父さんやご先祖様を迎えるのだ。
往路は早く来れるようキュウリの馬で、復路はゆっくり帰ってほしいと後ろ髪を引く想いでナスの牛。
まず、無造作に盛られたままの黒土を、箱を揺すって平らにする。
次に、石鹸でよく手を洗ってから、キュウリとナスを冷蔵庫の野菜室から取り出す。
続いて割り箸を割り、更に調理バサミで半分にカット。それをカッターで斜めに削り、新幹線の先頭部みたいになだらかなフォルムにする。本当は鉛筆みたいに鋭利にして刺したほうが土の上で野菜を固定しやすいけど、それだと野菜が可哀想だから、刺さなくても割り箸から落ちないような形状にしている。野菜は形状に個体差があるから、それに合わせて割り箸をカットするのが醍醐味。
でもそれだけだとなかなか難しいから、割り箸の着地側を丸めた小麦粘土に刺す。野菜にも小麦粘土をくっ付けたいところだけど、それは後で食べるときのことを考えてやめておく。
「よし、できた」
なんだか達成感!
響ちゃんはスヤスヤ、大騎くんはガーガーと、まだ気持ち良さそうに眠っている。
お読みいただき誠にありがとうございます!
故人を偲ぶ季節の章ということで、彩加の過去に、じわじわと迫ってまいります……!




