秋穂のE判定
「はぁ……」
夏、冷房でからだが怠い。非冷房なら熱中症になりかねず、勉強の捗らない自宅学習。
彩加たちが畳の上でごろごろお昼寝タイムを満喫しているころ、秋穂は夏の高い陽のせいで薄暗い自室の学習机に向かって独り頭を抱えていた。
彩加の父の死を受けて医師を志した彼女だが、理系科目の成績はいまいち揮わない。10段階評価で8と9が並んでいた。
しかし文系科目に関しては10の揃い踏み。
わたしは医者に向いていない。
人を救いたいという夢さえも、神様は私に成就を許さない。
どうして? 世間は医師不足なのに、どうしてわたしにはその穴を埋める資格がないの?
毎日必死で勉強しているのに、公式だってちゃんと理解しているのに結果が伴わない。
なのにあまり力を注いでいない文系科目はほぼ完璧。
あなたは理系だと幼いころから周囲の大人たちに言われてきたけれど、本当は文系脳なんだって、自覚しつつある。
わたしはわたし自身をよく知らないけれど、他者もわたしをよく知らない。
誰にも知られていないわたしは、一体何者なの?
自問しても仕方なく、わたしはわたしという肉体の中で生を全うするしかない。
こうして四方を壁に囲われ机に向かい、無機質な参考書やノートを眺めていても、前へ進むヒントは見つからない。少なくともわたしの場合は。
皆で出かけた一昨日や昨日のエネルギーが早くも底を尽き、いつもの鬱々とした頭の重たい日常はあっという間に戻って来た。
彩加ちゃんみたいに気ままなことをすれば、頭が冴えるかしら?
そう思った秋穂は冷蔵庫から5百ミリリットルペットボトルのスポーツドリンクを取り出しトートバッグに入れ、敢えて行き先を決めず外出した。
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舞台となっている茅ヶ崎市ですが、老衰死率が日本一と名誉な統計が算出され、今週号の『週刊現代』でも取り上げられました。図らずもその秘密の一つを、現代さんとは異なる形で本作は描いております。ぜひ読み比べていただければと存じますが、茅ヶ崎市内では『週刊現代』が品薄状態となり、書店では追加発注をしているところだそうです。私は湘南エリア外の街で入手しましたが、そこにはまだ数冊ありました。
ではでは!




