サンマー麺
「いやぁどーもどーも蒸し暑い中お集まりいただきありがとう!」
10時を過ぎても空は曇ったまま。なのに気温は30度を超えどんより重い空気が漂っている。
「おう!」
「きのうぶりだねー」
呼び出したのは大騎くんと彩加ちゃん。音楽ができる二人。
「きのうのことをまるできのうのことのように思い出すよ! さてさて二人にお集まりいただいたのは、三人寄れば文殊の知恵ということで? まぁ細かいことはよくわかんないけど、音楽をつくろうと思って!」
「おおお! 俺も音楽つくりてぇんだけどなんか行き詰まってさ、確かに三人寄ればなんとかだな!」
「ふむふむ、でもなんだか頭が回らないなー」
「えー、彩加ちゃんの頭が回らないならわたしたちなんかもっとだよ。どうしよう」
「うーん、困った困った。そういうときはとりあえず」
ということで、やってきたのは茅ケ崎駅からバスで5分の住宅地にある彩加ちゃんのお家。ここへ来る前に駅前の本屋さんで各々好きな漫画の単行本や雑誌を買って、中華屋さんでサンマー麺を食べた。
サンマー麺はラーメンにモヤシやキクラゲなどの野菜を乗せあんかけした神奈川県のご当地グルメ。つい最近まで神奈川周辺でしか食べられていない料理だとは知らなかった。ちなみに魚のサンマは乗っていない。漢字表記で『生馬麺』。広東語で、新鮮でシャキシャキした具を上に乗せるという意味だってさっき食事中に彩加ちゃんが言ってた。
お昼を過ぎたころには空が晴れ、なのにセミの声は聞こえなくなった。中華屋さんに入ってるうちに気温がぐっと上がって、セミも夏バテしちゃったのかな?
湿気がすごくてちょっと頭が痛い。食事しなかったら倒れてたかも。
クラクラしていたらどこかのスピーカーからピンポンパンポーンとチャイムが鳴り『こちらは、防災、茅ヶ崎です。ただいま、光化学、スモッグ警報が、発令されました』と、市民ならほとんどの人が聞き慣れているであろうやたらゆっくりで句読点ごとに2度エコーする市役所職員の男性の声が町中に響き渡った。茅ヶ崎公園でやったサザンの茅ヶ崎公演よりよく響く役所の人の声。
うんうん、こりゃ不調になるわけだ。
「さぁどうぞ~」
「おじゃましまっす」
「おじゃましま~す。彩加ちゃんのお家久しぶりだぁ」
食後にやってきたのは彩加ちゃんのお家。膝ほどの段差がある玄関に入った途端、線香の香りがした。
そう、彩加ちゃんのお父さんは7年前に亡くなっている。
古い日本家屋の平屋建て借家。洗面所も旧式で、中央部に青いマークがペイントされた蛇口のネジ。卒業した古い小中学校もこれを使ってた。
手洗いうがいを済ませたら、三人揃って居間の小さな仏壇に線香を上げて手合わせ。
おじさん、久しぶり。これからも彩加ちゃんを見守っててね。
約30秒後にわたしと彩加ちゃんが目を開けたときも、大騎くんはまだ口をきつく結んで手を合わせていた。
不慣れな感じだけど、あの世の人にも敬意を払ってるんだな。
大騎くんが合わせた手をほどき目を開けたのは、それから十数秒後だった。
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