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空色サプリ  作者: おじぃ
江ノ島

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43/70

消えゆくいのち、つながるいのち

「うわぁ……。助けたいな」


 僕と彩加先輩の足元に墜落したのは、セミ(彩加先輩曰くニイニイゼミ)を捕食中の大きなアブ(彩加先輩曰くシオヤアブ)だった。鳴けないメスのセミなのか、アブにがっしり抱えられ苦しそうにもがいているけれど、声が出ていない。


「だめ、なんだよ、きっと。これが自然の掟だから」


「それはわかってます、けど」


 セミの眼はまだつやつやしていて、生気を失っていない。幼いころから勉強ばかりしていてこういったものを見て育たなかったからか、いま目の前の光景に胸がざわめいて、ショックで涙が浮かんできた。


「じゃあ、ちょっと試してみようか」


 言って、彩加先輩は落ちていた小枝を拾ってアブとセミの間をつつくも、アブはビクともしない。


「きっとね、いまこのアブを枝で刺し殺しても、この子はもう助からない。それに、アブだってこの後すぐに踏み潰されたり、他の生きものに食べられちゃうかもしれない。この世界はね、他の命をいただいて、自分の命をつなぐようにできてるんだよ。私たちだって、そういう仕組みの中で生きてるんだ」


 それは、勉強ばかりしてきた僕でも理解している弱肉強食の世界。その頂点に立つ者も、死すれば地や水へ還り、弱者の餌食となって、それを強者が食し、循環する地球上の絶対的な仕組み。


 彩加先輩は見下ろしながら、一度深く息を吸った。


「でもね、奪われるほうは、やっぱりつらいよ。助けて、痛いよ、怖いよ、もっと生きたいよ、こんな奴いなければってきっと、思ってるんだよ」


 きょう、彼女の涙を見るのは二度目だ。おそらく、お父さんを亡くした過去と重ね合わせているのだろう。それにやさしいひとだから、目の前で消えゆく命にも哀悼の意を示しているのだと思う。


「つらいけど、そろそろ行こうか。みんな奥のほうで待ってるだろうし」


 やりきれぬ気持ちを遺し、僕らは島の奥へと歩を進めた。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 更新が遅くなり大変恐縮です。


 江ノ島は藤沢はもちろん、隣接する茅ヶ崎や鎌倉に住む人々の散歩道やジョギング、サイクリングなどの折り返し地点として親しまれ、全国からも多くの方が来られる人気スポットです。本作では引き続き『日常モノ』としての役割を果たしつつ、湘南をご紹介してゆきたいと思います。

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