はじめて芽生えた気持ち
望くんがリビングを出てから十分後。さてそろそろと洗濯機のスイッチを入れようと廊下に出ると、脱衣所から稼働音が漏れてきた。望くんがスイッチを入れてくれたみたい。
運転モードは合っているかな? 私は脱衣所内に入って洗濯機の前に立ち、念のためパネルを確認した。
うん、大丈夫。
浴室内はシャワーの音もせず静かで、望くんが心臓発作とかで倒れていないか心配になったけど、クラスの騒がしい男子いわく『女の子の日があるように、お風呂は男の子の時間になる日もあるから覗いちゃノンノン♪』だそうなので、彼が倒れたりうずくまったりしていないかを曇り窓越しのシルエットで確認して、脱衣所を出た。男の子も女の子も、からだが疼くのは生命力がある証拠。
朝焼け前の薄暗いリビングに戻ると、響ちゃんが絨毯の上に座っていて、猫のように足の指でカシャカシャと耳を掻いていた。見なかったことにしておこう。
「おっと彩加ちゃんノーリアクションは困る。まるで私がバカみたいじゃないか」
「おはよう。ごめん、さっきお風呂借りた」
「グッモーニーン。その恰好見ればわかるよ。私もシャワー浴びようかな」
「おっとまたまたソーリー。いま望くんが入ってる」
「ほうほう。じゃあ2階のお風呂使うからいいよ」
「ねぇねぇ、これから海までお散歩しようと思うんだけど、響ちゃんも行く?」
「私は疲れが溜まってるからいいよ。仲良しカップルはまだ夢の中みたいだし、望くんでも誘って行ってくれば?」
「わかった。そうする」
それからしばらくして、望くんがお風呂から出てきた。
「あ、ど、どうも、お風呂ありがとうございます。響さんは?」
「2階のお風呂に入ってるよ。服、乾いた?」
言いながら、私はようやく気付いた。望くんと私の服、下着もいっしょに洗濯してるから、脱いだばかりのものを見られちゃったかも。脱いだばかりでなくても、洗濯機でごちゃ混ぜにされてるから、望くんが自分の衣類を取り出すとき確実に見られてる。
「あ、はい、大丈夫です」
望くんの態度は心なしかいつもよりモジモジしていて、お風呂上がりのせいもあるだろうけど、頬が赤い。そして、私と目を合わそうとしない。
やだ、恥ずかしい……。
初めて私に、そんな気持ちが芽生えた瞬間だった。
自ずと頬が熱くなってくる。きっと私もいま、望くんと同じ表情で、彼を直視できない。




