男子高校生という生き物
脱衣所。僕の目の前にはドラム式洗濯乾燥機が設置されている。洗濯を終えるとそのまま乾燥モードに入る代物だ。
さて、脱衣を済ませたは良いものの、洗濯機の扉を開けたらそこには水城先輩の下着が入っているわけで……。
あのひとはそういうの、気にしないのだろうか。
浴衣は洗濯カゴに畳んで入れてある。クリーニングに出すのだろう。だから下着が浴衣に包まれている線はない。つまり、扉を開ければダイレクトにそれがあるわけだ。
けど待てよ。浴衣を着用するときは下着を付けないといつしか何処かで聞いた覚えがある。
そっか、考え過ぎだ。洗濯機の中に入っているのはタオルだけ。なんだ、それはそれでちょっと残念な気もするけれど、背徳感に苛まれ続けるよりはマシだ。
推論を終えたところで僕は、少し重たいスケルトンの扉を開けた。スケルトンなのに物怖じして中を確認できなかったけれど、いざ開けてみて入っていたのは、大小の白いタオルが一枚ずつと、上下の下着が一枚ずつ。色は浴衣に合わせたのか、薄いエメラルドグリーン。
ま、まずい、急に鼻と頬が熱くなり、学生服を着ていると時々見える腋を思い出したりして、下半身の正直な部分が元気になってきた。
まずい、このタイミングで誰かが入ってきたら非常にまずい。まだ4時とはいえ、誰も起きないとは限らない。現に水城先輩はもう起きているわけだし。
僕は焦燥しながら洗濯機の『スタート』ボタンを押して動作確認すると、そそくさと浴室に身を隠した。
途端、モヤッと湿気が僕の全身を覆う。そうだ、さっきまでここには水城先輩が……。
この浴室の面積は5平米といったところだろうか。バスタブは白い強化プラスチック製で、おそらくニュージーランドかオーストラリアから輸入したもの。ビジネスクラスのシートのようにゆったり脚を伸ばせる。床や壁面のタイルも白い。恐らくこの家は2階にメインの浴室があって、屋根の窓を開けて星空観賞なんかができるようになっているのだろう。
「はぁ……」
扉を閉めて。ホッと胸を撫で下ろす。
男子高校生には刺激的な代物だった。疲労が蓄積していると情緒不安定になって、子孫を遺したいという生物的本能が活性化し劣情が湧きやすくなる。理屈は解っているけれど、未来の可能性を広げたいから疲労の主な原因になっている勉強はやめられないし、仮に高等学校レベル以上の学力が不要な職に就きたいと思っても、両親は塾をやめさせてはくれないだろう。
いつまで続く? この賽の河原のようなループの日々。
そんかことを口にしたら、世界には学びたくても学べない人がたくさんいると罵倒されそうだから黙ってはいるけれど、学習指導要領の履修に恵まれ過ぎた脳ミソはもうキャパオーバー。
風呂椅子に座るのは恐れ多く、屈んでシャワーのレバーを下ろし、立ち上がって湯を浴びる。
洗濯機の稼働音と、シャワーのやわらかい音はあまり交わらず、それぞれに聞き取れる。
だめだ、シャワーを浴びても気持ちが落ち着かない。このままでは衝動的に水城先輩を襲ってしまうかもしれない。ケダモノと思われるかもしれないが、全員とはゆかずともおおよその男子高校生はそういう生き物だ。
洗濯中の衣類を乾燥させるため、どのみち1時間近く浴室にいなければならない。
事を起こしてしまったら取り返しがつかない。ならばこの時間を使ってやることは、ひとつしかないか……。




