望、悟りを開く
「さあどうぞー! ここが音楽プラクティスルーム!」
来るんじゃね? 俺の時代、来ちゃうんじゃね?
コンクリート張りの質素な地下室。天井にむき出しの蛍光灯が三本宙吊りにされているが薄暗く、空気は少しひんやりしていて夏には快適。冷暖房完備でバンドやるのに必要な道具一式揃ってるし、夢に迷ってたこのタイミングで水城先輩が響ちゃんと引き合わせてくれたって、これ、神様が俺の味方してるんじゃね?
苦労して一般入試という狭き門を潜り抜けて湘南海岸学院に入った俺はとうとう天をも味方に付けた最強ミュージシャンへの切符を手にしたんだ!
「どうしたの? ニヤニヤして気持ち悪い」
「お前にはわかんねぇよな秋穂! 所詮お前は秋の穂で神の子じゃない」
「あの、何を言っているのかしら? いつもみたいに下ネタ責めかと思ったら意味不明なことを言い出して、どう対応すべきかわからないわ」
「そうだろうな。秋穂はまだその域には達していないんだ。でも大丈夫。己の道を信じていればいつかそのときが来る! この俺みたいにな!」
「最後に尤もらしいこと言われると腹が立つわね。そうだ、あなたの急所を蹂躙すれば気絶して神様に会いに行けるんじゃないかしら」
「神様には望に会いに行ってもらおう」
「えっ、僕なんかまだまだだよ……」
望だってやっぱ男。夢が決まっていないのもあるだろうが、自分の股間をさりげなく気にして秋穂の挙動を窺う一瞬を俺は見逃さなかった。
秋穂は頬を赤らめて
「そうよ、滝沢くんは……あっ、違う、そういう意味じゃないの!」
「あ~あ、望、神妙な表情しちまったじゃねぇか。俺の親友傷付けてどうしてくれんだよ」
「大丈夫、僕も悟りを開けたから……」
僕に夢なんか、一生見つからない。望のオーラは確かにそう語っていた。だが心配すんな、俺といれば人生バラ色だ!
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更新遅めで申し訳ございません。次話は近日投稿予定です。




