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空色サプリ  作者: おじぃ
夜遊び
31/70

夜の秘密

 楽しい時間は刹那に過ぎるもの。夢中になっているうち、花火大会はあっと言う間に終わりを告げ、人々はそれぞれの家路を辿る。この街のシンボルであるCの形をしたモニュメントには泥酔して奇声を上げている若者が群がり、砂浜の一角には茅ケ崎駅行きの臨時バスが次々と乗り入れ、長蛇の列を成している見物客のごく一部を車両いっぱいに詰め込んでいた。


 私たちは水色の背景にシャボン玉のような丸いキャラクターのイラストが描かれた地下道を抜けて無秩序な人混みに紛れ、サザン通りからすぐ裏道に入った。


 一歩入ればそこは、静まり返った高級住宅街。たった今までの喧噪が嘘のように、私たちの足音と、生暖かい風が靡いて僅かに周囲の葉が擦れる音しか聞こえない。LEDの街灯と、軒を連ねる豪邸から僅かに漏れるオレンジの光はエキゾチックで、どこからか魔女や吸血鬼が出てきそう。地元の人しか知らない、夜の秘密。


「ねぇねぇ、みんなウチ来ない? せっかく知り合えたのに他校だからなかなか会えないし、このままバイバイじゃなんか物足りないよ」


「わぉ、響ちゃんのお家は豪邸だから、みんなで集まるには絶好の場所だよね。おじさんとおばさんは?」


「仕事でいないから大丈夫! それに大騎くんには打って付けの音楽プラクティスルームもあるよ!」


「おおマジか! 行く行く行っちゃう!」


 響ちゃんの英語の発音はとても綺麗なのに、なぜか『音楽』だけ日本語なのが気になった。


 あまり騒がしいと近所迷惑なので、みんな自ずと静かになった。そのまま緩やかな斜面を上がりきると響ちゃんのお家に到着。キャンピングカーが入れる程度の芝生のお庭に、60坪くらいのモノクロームなモダンハウス。どうして従妹は豪邸に住んでいて、私は狭い借家なのだろうと、一瞬首を傾げたくなった。


 各々おじゃましますを言って、20平米ほどの玄関に靴を並べ、廊下に上がる。


「おお! エレベーター! 一軒家なのにエレベーターあるぞ!」


「うん! ピアノ以外の楽器は地下室にあるから、機材運ぶのにエレベーター使うと便利だよ。でも夏の昼間は電力不足になるからあんまり使わないんだ」


「さすが響ちゃん! 社会派だ!」


「てへっ! もっと褒めて~」


 大騎くんは響ちゃんをベタ褒めしながらシャンデリアやエレベーターほか、ほぼ全てが一般的な住宅より広めに取られて開放的な空間に圧巻されているけれど、秋穂ちゃんと望くんはあまり驚いている様子はない。あぁ、そうなんだ。君たちはそうなんだね。


 まず洗面台が二つある更衣室に通されて手洗いとうがいを済ませると、50インチのテレビと五人くらいは座れそうなソファーが鎮座する一階のリビングに通された。隅ではモンステラが慎ましくお出迎え。何度来ても日常とは掛け離れた異空間。天井にはスズランのような形状の笠がサークル状に五つ並んだ暖色照明のシャンデリア。もちろんリモコン式。私の家にもリモコン式照明こそあれ、紐を引くタイプの器具も現役だよ。


 更に凄いのは、どこの部屋の照明が点いているとか、鍵が開いている窓やドアが無いかを、リビングの出入口にある液晶モニターで一括管理できるところ。もちろん侵入者を感知するセンサーも敷地内の至るところに設置されているから、広いお家で一人きりでも安心の設計。


 こんな風に羨ましいと思うことはたくさんあるけれど、それでも私には、こじんまりとした借家で過ごす日々も、とても捨て難い。どうしてだろうな。お父さんが亡くなってから引っ越したお家で、大きなイベントといえば秋穂ちゃんとお泊り会をしたくらいなのに。一つひとつ、毎日の殆どを思い出せないような、なんてことない日々にも、しっかり思い出が刻まれていて、その中には確かに、あのお家がともにあるんだ。

 明けましておめでとうございます!


 いつものんびり更新で恐縮です(ノ_<。)


 本年もよろしくお願いいたします!

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