僕は陰部を、水城先輩は胸を
「ウツラウララカな夢を求めて、日々はユラユラただ流れてく。僕らは未来に何を夢見る? そんなコト考える暇なんてないさ。うんうん、現代日本の若者って感じの詩だね」
花火大会の会場に辿り着き、Cの形をしたモニュメント『茅ヶ崎サザンC』の前で大騎、鶴嶺さんと落ち合った。西には紅を背景に富士山の影が浮いていて、打ち上げまでは少し時間がある。
水城先輩が従妹の響さんを同行させたのは、音楽を嗜む者同士で何か分かり合えることや成長の機会があると睨み、大騎に会わせるためと言っていた。
いま、響さんは大騎オリジナルの歌詞を読み上げたところだ。
祭りの喧騒の中、ロングヘアの水城先輩と響さんの髪が潮風に靡く。
「これ、本当に東橋くんが書いた詩? 到底信じられないわ」
鶴嶺さんの言う通り、いつもチャラチャラしている大騎からは想像し難い浪漫を感じる。こいつ隠れロマンチストか?
けれど僕はそんな詩すら書けない。何も特技がない。何かあるだけ大騎のほうが優れているんだ。人間として。
「はっはっはどうだ秋穂! 俺に惚れたか? 惚れたといえばチョコバナナ奢ってやるぜ」
「あれ? 二人とも、付き合ってるんじゃないの?」
響さんの問いに、同じ疑問を抱いていた僕や水城先輩も僅かに目を丸くし、キョトンとしている。
「どこをどう見たらそう見えるの? 東橋くんはボンッキュンボン! のグラマーな女性を追い求めた挙句、誰にも相手をされずに童貞のまま生涯を終えるのよ」
「残念だな! 男は愛のない営みならカネを払えばやらせてもらえるんだぜ! 秋穂だってたまに風俗ネタやってるだろ?」
「あなた、言ってて虚しくならないの?」
ついこの前、貧乳自虐ネタを披露した鶴嶺さんにも同じことを言いたくなった僕と、やはり同じことを言いたげな表情の水城先輩だが、それを言ったら僕は陰部を、水城先輩は胸をどうにかされてしまいそうなので、互いに黙っている。
一方、響さんは僕らの様子を俯瞰して微笑んでいる。きっと僕らの関係性、特に大騎と鶴嶺さんの息がピッタリでとてもお似合いだと察したのだろう。
それを見ていた鶴嶺さんは照れ隠しなのか、ムスッとして心底不満な表情をつくり、どこか誰かに何らかの理解を求めているようにも感じられた。
談笑しているうちに陽は沈み、露天商の粉ものや焼きそばの焼けるにおいとともに、お祭りムードが増してきた。そろそろ花火打ち上げ開始の時間だ。
お読みいただき誠にありがとうございます!
次回から、花火大会に思いを馳せる一同を描いてゆきます。




