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第二十五話 よみがえった忌まわしい記憶

第二十五部 よみがえった忌まわしい記憶

 

「向井さん、かわいそうに。ショックで、立ちあがることもできないんだって」

「もともとそう丈夫じゃないって話してたもん。本当は、ふたりめの出産も医者に止められてたんだって」

「やめておけばよかったのにね。和子ちゃん、生むの。そしたらこんなことにならずにすんだのに」

「悠馬くん、いい子だったもんね。やさしくて、頭もよくて」

「まさか、こんなことになるなんてねえ」

 顔をあげると、おばちゃんたちと目があった。となりにすわっているのは、お兄ちゃんのクラスの佐伯君と三並さんだ。中に入りきれずに、外でお線香の順番を待っている六年生もいっぱいいる。みんな泣いている。みんなわたしを恨んでいる。わたしがお兄ちゃんを殺したから。わたしだけ生きているから。

 ふたり乗りはしちゃだめよって、おかあさんにあんなに言われたのに。お兄ちゃんもいやがってたのに。それなのに、わたしが無理に頼んで、お兄ちゃんの自転車のうしろにのせてもらったから。

 ローソンの前の信号のない四つ角を曲がった瞬間、自転車のバランスが崩れた。わたしがみっちゃんに手を振ったから。自慢したかったから。生徒会長で人気者のお兄ちゃんを独占してるのが、うれしかったから。

 道路に倒れ込んだとき、トラックが突っ込んできた。お兄ちゃんのからだが自転車ごとぽーんとはねあがるのを見た。その向こうに広がる空がこわいくらい青かった。そんなことを感じているわたしはまったく無傷だった。

 本当は生きてちゃいけないんだ、わたし。

 笑っちゃいけないんだ、わたし。

 アトピーになって、顔がずるずるになっていったのは、神さまの罰がくだったから。当たり前だ。だって、わたしはみんなの宝ものだったお兄ちゃんを殺してしまったんだから。

 ごめんなさい。

 どうしたらいい。

 ごめんなさい。

 どうしたらいい。

 ごめんなさい。

 この世界で生きているのが、つらいです。

 消えてとけて、なくなりたいです。

 死なせてください。

 ふうっと力が抜けたその瞬間、突然足をつかまれた。黒い影から飛び出した二本のどろどろの手。ずるずると影の中に引きずり込まれる。心はひどく空っぽで、抵抗する気力もない。何もかももうどうでもいい、どうにでもなれ。

 そのときだった。どこからか、不思議な声が聞こえてきた。

 

 ソロエナラベテ イツワリサラニ タネチラサズ 

 イワイヲサメテ ココロシズメテ


 誰? お兄ちゃん? 

 違う、ハクだ。この声はハク。

 

 ソロエナラベテ イツワリサラニ タネチラサズ 

 イワイヲサメテ ココロシズメテ

 




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