一
「…、…!!…シノ!梓乃!」
混濁した意識の中で唯一、その声だけが鮮明に響いていた。
鼻につく鉄の臭いも、既に感じなくなっているというのに。
「嫌だっ、目ぇ開けて!!!」
「…ア…ヤ…」
近寄るな、と言いたくても声にならない。血が流れ出る度、自分の中の生きる力もまた、外に流れていくのが分かった。
それでも、あまり悪い心地はしない。
ただ一つ残念なのは、最期にお前の顔が見れないということだ。
「どうしよう、梓乃が死んじゃう。どうしたら…」
「もう行け…二度と、戻ってくるな…」
縋り付いてくる小さな体が、いやいやと駄々をこねたように揺れる。
目は見えずとも、泣いているのが分かった。
結局俺は、お前を泣かせてばかりだったな…。
瞼の裏に、唐突に流れ出す数々の記憶。
これが走馬灯というものなのか。今更思いだしたくもないようなことばかりで、ろくなものがないなと思う。
嗚呼、まさか自分にもこのような日が来るとは。
早く行け。
これまでろくな暮らしをさせてやれなくて、本当にすまなかった。
言いたい言葉は、ついに言葉になることはなく。
かさつく唇を自嘲の笑みに歪め、梓乃はゆっくりと、記憶の渦にその身を委ねていった…
突然の乱入すみません!
作者の伊織です。この度は『孤高の鷹は、華を愛でる』を読んで下さり、誠にありがとうございます。
次ページから話の時間軸が飛ぶので、それだけご報告させて頂きます。この作品がこのサイトでの処女作となりますので、どうか温かい目で見守ってやって下さい泣