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孤高の鷹は、花を愛でる  作者: 刄津まゆり
少年と赤子
1/21

真冬の空気が、肺を痛めつける。



…苦しい、辛い。




「小僧!!!止まれぇ!!!!」




少し離れた所、いや、そう遠くない所から怒号が聞こえた。



誰が止まるものか。



止まれば、殺される。

その事実だけが、今年十三になる少年の細い足を動かしていた。


慣れ親しんだ山道を脱兎の如き速さで駆け下りる度、ガサガサと足下の落ち葉が鳴った。そして、その音を掻き消さんばかりに、背後から大量の足音が押し寄せる。



少年、梓乃シノはたった今、生まれて初めて一族の掟を破った。故に、こうして命を狙われている。

今この場で立ち止まり、謝って考えを改めれば、まだ父も他の大人たちも自分を赦してくれるかもしれない。


そんな甘い考えは、すぐ後ろから聞こえる罵倒で消え去った。

いくら梓乃が謝ったところで、あの暴徒の耳に届くとは思えない。




逃げ切れば、生き延びられる。


捕まれば、一巻の終わり。


実に分かりやすい。


…死ぬ訳にはいかない。

梓乃はまだ、死にたくなかった。


だから、無我夢中で走っている。



竹と竹の間を縫うように走り、高い大木の上を猿のように渡った。それでも、大人たちは執拗に梓乃を追いかけてくる。一族の中でも一等速いと言われる梓之の足も、先程の攻撃でズタズタに切り裂かれていた。

少しずつ、だが確実に、梓乃と追っ手の距離は縮まっている。



くそ、やられる…っ!



そして、とうとう後ろから追っ手の腕が背に触れた時。




突如、梓乃は皆の視界から消えた。

梓乃が立っていたすぐ目の前には、大きな崖がある。

その遥か下には、岩だらけの渓谷が広がっていた。


「飛び…降りたのか」


追っ手の内の誰かが、そう呟いた。その場にいる全ての者が、一人の男に指示を仰ぐように向き直る。男は唯一、他の者と違って黒装束を身に纏っていないし、見た目も一番老いて見えた。しかし、その至って普通の着物の下には、鍛え抜かれた鋼のような肉体がある。


雪のように真白な髪が、妙に不自然だった。いくら年老いているとはいえ、ここまで綺麗に白くなるものだろうか。


若い一人の男が、黒い頭巾を外す。出てきたのは、同じ白髪頭だ。


「まだ死んだとは限らん。運が良ければ、命拾いしておるやもしれん」


「しかし、小太郎さま。梓乃は…」


小太郎と呼ばれた初老の男は、その言葉が続く前に遮った。



「奴は最早、我が息子ではない。抜け忍は誰であろうと必ず処罰する…幼い頃から、そう骨に刻んで育てたというのに」



愚かな男だ、と。

息子とはもう呼べない少年に向かって、悲しげに小太郎は呟く。


梓乃は生きている、小太郎にはその確信があった。



忍びになるべくして生まれてきたような子だ。この程度で死ぬような器ではない。




「梓乃よ、お前がいくら人より抜きん出た忍であっても関係ないぞ。何があろうと、お前を生きてこの山からは出さん。父を、風魔小太郎を裏切った事を、後悔するがよい」




それだけに、息子・梓乃の裏切りは彼にとって大きなものだった…









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