TILE5-8 珍しく
....赤い、冷たい........血....
赤く微妙な光に煌めく鮮血は鮮やかな色で、怪しく輝いていた。
「!!....あ、愛歌....こ、これ....!!」
飛夜理が指差す先は、....
母さんたち....。
それはもう、残像とも言い難く、原型を留めていない足や手、腕。そして体。
母は両眼にフォークが刺さっていて、父は、口から傘の持ち手が顔を出していた。
....なんで?
その言葉が脳裏を過ぎった。
逆にそれしか言葉が思いつかなかった。
「誰が、こ、んなこと....だ、れが、父さん、たち、を、殺したの?....誰、が、殺、った、の?」
また、自分の口が勝手に物を言う。
でもその通りかもしれないのだ。
だって....それは、完璧な。
『一軒家』という、完璧な密室なのだから。
父と母は私が家に戻らずに走り去った事は知らない。
きっと、あの後まだ口論を続けてたのが少し聞こえたからだ。
でも、家には鍵が掛かってた...窓も夏以外開けないせいか窓鍵は固まり、ただでさえ開けにくい状態だ。
2階も同じだが、鍵はやはり開きにくい。
だから、『密室』が完璧になる。
もし、どちらかがどちらを殺そうとも2人とも同じ死体の状態とは確実におかしいのだ。
そう、殺し合いになったなら、母は両眼が見えないのだから、父はこうならないし、父が傘を先に刺されたのなら、母を殺そうとも不可能になる。酸素が足りないからもあるが、息ができないからだ。
それに、手や足、体が原型を留めずに惨殺されてるのは可笑しい。
いや、不可能だ。
「と...とりあえず!濱崎さんに連絡...!」
飛夜理の叫ぶ声は秋風の音に微かに消された。
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5分もしないうちに真吾は来た。
酒木先生の、幼馴染み...の刑事が。
その人は相変わらず、緩く、軽い格好をしていた。
「珍しく、飛夜理君から連絡があると思えば...こりゃ大事件だぞ」
苦笑いともいえず、歪んだ顔をしてた。
でも、目の奥は何処か本気だった。色があった。情熱の、赤が。
この刑事は...一体村にどう思ってるんだ....?
「第一発見者は、愛歌ちゃんと飛夜理君。被害者は、愛歌ちゃんのご両親....か。そして、密室での殺人。....こりゃ、迷宮入りに出来なさそうだ」
ぶつぶつと呟いてノートに書き込む。
でも、今の私の精神状態はそんなことを気にかけられない。
何もかも、脳内が真っ白になってるから....。
そのまま、今日は終わりを告げた。