Freude
アヴィス達が帰ってきた後、エストリアではお祭り騒ぎとなった。
魔物の復活の阻止、人質全員救助、盗賊の捕縛と、めでたいことが山ほどあったのだ。
そんなどんちゃん騒ぎの中、アヴィスは街外れの丘で祭りを見ていた。
???「こんなところにいたんだ」
アヴィス「・・・マリアか」
マリア「祭りなのにいないと思ったら・・・大丈夫なの?家に戻ってこれる?」
アヴィス「心配するのはそこですか・・・大丈夫だよ、道は覚えたから」
苦笑いしながら、アヴィスは再び街の方を向いた。
アヴィス「・・・前もここに来た時感じたけど、風が気持ちいいな・・・」
マリア「そうだね・・・」
マリアはアヴィスの隣に静かに座った。
アヴィス「ねぇマリア、変な事を聞くけど・・・」
マリア「どうしたの?」
アヴィス「その、なんだ。マリアにとって喜び、て何?」
マリア「喜び?」
アヴィス「そう、喜び」
一度のびをしてアヴィスは寝転がる。
アヴィス「知っての通り、僕の本名はフロイデ、喜びを表している。母さん達にとっては喜びの象徴だったんだ。・・・でも実際はある意味災厄の象徴だった。まぁ頭の古い連中の解釈だけど。それで僕は両親を失い、友達や初恋の人と離れ離れになった」
マリア「ふーん・・・え、は、初恋の人!?」
初恋の人、という単語にマリアは大きく食らいついた。
アヴィス「ま、初恋と言っても今思えば単なる憧れだとかそんな低レベルなものだけどね。でもその人・・・いや違うな。皆と笑いながら喋るのは楽しかったし、これが喜びなのかな、て当時は思ったんだ。・・・今じゃ全部失ったんだけどね・・・それで喜びの象徴である、という生きる意味を失ったと思ったんだ。・・・でも今のこの状況をみてると、これもまた一つの喜びなのかな、て思うんだ」
マリア「そだね・・・少なくとも皆心の底から笑って騒いで呑んだくれてたから。皆と笑いながら過ごす、というのも喜びだね。私にとっての喜びもそう。皆と笑いながら過ごすが一番の喜び」
アヴィス「そっか」
アヴィスはむくりと起き上がった。
アヴィス「ねぇ・・・マリア。今の僕はまた喜びの象徴に戻れているかな?」
マリア「・・・少なくとも、私はそう思うな」
マリアはよっと、と声を出して立ち上がった。
マリア「私にとってアヴィスに出会えたことも喜びだしね」
そしてアヴィスに向いてにっこりとウィンクした。
マリア「さ、祭りに戻ろう!アヴィスも皆と楽しもうよ!」
アヴィス「そだね」
マリアはたった、と駆けていった。アヴィスもゆっくりと立ち上がる。
アヴィス「・・・なぁ、母さん、父さん。僕はまた、喜びの象徴であることを生きる意味として生きて行ってもいいのかな・・・」
ぼんやり浮かんだ月をみながらぼそりと呟いた。
翌日。
リリサ「どうしたの父さん、呼び出しなんてして」
レギン王「うむ、これは皆に話そうと思うから少し待っていてくれ」
ハイン「分かりました」
そして数分後、昨日人質救助に向かったメンバーが揃った。
レギン王「さて、皆を呼んだのは2つの用事があるからだ。まずは1つ、昨日のお礼だ。皆の活躍のおかげで大きな問題なく事を済ませることができた。王として、国の一員として礼を言う」
レギン王は深々とお辞儀をした。
レギン王「さて、もう一つの用事なんだが・・・昨晩伝手を介して碧の民についての情報を集めた」
アヴィス「ひ、一晩でですか!?」
レギン王「うむ。魔導通信によってな」
魔導通信とは、簡単に言えば魔力によって繋がる電話みたいなものである。
レギン王「それでちとよからぬ事を聞いてな・・・」
ハデス「よからぬこと・・・とは?」
レギン王「まだ確定的なことではないのだが、どうも一部の碧の民が世界各地で不穏な動きを見せているらしい」
アヴィス「え、でも碧の民、て故郷にずっと篭ってるんじゃ・・・」
レギン王「アヴィス君がいない間に碧の民にも変化があってな。積極的に他者との交流をしようとする者が出てきたのだ。ひょっとしたらアヴィス君の影響かもしれんがな。因みにそれらは全て若い世代、アヴィス君とも同世代だと聞く」
アヴィス「へ、へぇ・・・初耳だ・・・」
レギン王「だが比較的老いた世代は相変わらずだがな。また不穏な動きを見せているのもこの世代の碧の民らしい」
アヴィス「ギルティ達か・・・」
レギン王「で、ここが一番大事な情報だ。どうも奴らの次のターゲットは山神らしい」
ハデス「山神!?」
一番食らいついたのはハデスだった。
ハデス「で、ではアリメアは・・・」
レギン王「その内ここみたいになるかもな」
ハデス「こうしちゃいられない・・・」
レギン王「そこでエストリアの援軍として君達を送りたいんだ。ハデス君は元々アリメアの騎士だがな」
ハイン「僕は構いませんが・・・アヴィス君やマリアさん、それにセリーナさんは・・・」
アヴィス「僕なら構わない。元々この国の住人じゃないしな(汗)」
マリア「私は・・・マスターに相談してみます」
セリーナ「うちも他の皆と相談しないとねぃ」
レギン王「それでは決めたらまたここに来てくれ」
一同「「「分かりました」」」
アヴィス「アリメア、てどんなとこなんだ?」
ハデス「一言で言うなら南の楽園だな」
アヴィス「へぇ・・・楽しみだな」
碧の民に関わる話はまだまだ続く。