今になって・・・
シリアスかなぁ・・・?
私は家に戻った。そこで待っていたのは私が予定していた書類の山ではなく、とても良い笑顔を浮かべた父親だった。
「ロゥ・・・。予定がずれた。決行は今日だ」
「それはずいぶんと唐突ですね」
「・・・。それでも出来るだろう。そのためにいままで鍛えて練習して来たんだ」
「はい。必ず成功させてみせます」
「・・・。夜になったら地下室にこい」
「一つだけ・・・。一つだけいいですか?」
「なんだ?」
「なぜ早まったのでしょうか?」
「前の生贄の生命力が足りなかった。だから亀裂をふさぐための力が足りなかったようだ」
「そうですか。わかりました。では、失礼させて頂きます」
私は思わぬ事態に動揺した。・・・。なんてことはない。しっかりと把握ずみだ。もしもの時のためにやらないといけないことは全て終わらせた。帰ったと同時になんて笑えない状況が起こらないとも限らないからな。私がいなくなった後の部下の勤め先はもう完璧だ。裏の社会の私の代わりも用意した。ラリーにも恩返しをされた礼として政治的に優位に立てるよう・・・。というかむしろトップに立てるよう仕立て上げた。この家もアカシア様の子供が死に絶えるくらいまでは絶好調で持つまでは立て直せた。
「・・・。他にはなにかやることあったか?」
なんもないな。まぁ、そうしたのは私なのだが。
「・・・。この日と同時に私の価値がなくなるようにしたのは私自身なんだがなぁ・・・。必要とされている気分に浸るのもこれで最後か」
一人零した声は誰の耳にも届かない。ただ、彼女の心の中に何度もつぶやき続けた塵が溜まっていくだけだ。何気ないしぐさで、彼女の数少ない持ち物である机の上に手を伸ばす。そこに置いてあったのは古びた日記。
「お母さん。私は私の最後の使命を果たしに行って来るよ。誰も私を必要とはしてないけどこの命に使い道があるみたいだから」
最後の最後に一人ぼっちの時間を過ごしたって言うのは 笑えないなぁ・・・
一人感慨深げに日記をもてあそんでいたら扉をノックされた。
私を訪ねて来るような人なんていたか?誰だろう・・・。
そっとあけると・・・そこにはアカシア様がいた。
「・・・。何かご用でしょうか?」
「・・・」
「アカシア様?」
「・・・」
「何かあったのですか?」
何かあったのか?アカシア様に敵意のある集団は全部つぶしたし・・・上を狙っている奴らには深ーく釘もさしといたし・・・。よっぽどのこともなければ何も起きない・・・はずだ。なのになんで?
「アカシアさ・・・」
「お姉ちゃん」
「・・・・・・・・・・は?」
あっけにとられていつもは出さない様な声を出してしまったのは許して欲しい。誰この人・・・?
「あかし・・・」
「お姉ちゃんだって」
「・・・。あのどういう意味でしょうか」
「15324323+14543634は?」
「29867957です」
間髪いれずに答える。
「・・・・・」
「・・・・・」
アカシア様は何が気に入らないのだろうか?最後の最後に今だかつてない難問にぶち当たった気分だ。
「・・・・・・・・・・・・・・呼んで」
声が小さすぎて聞こえない。
「えっと・・・」
「私は・・・あなたの何?」
「命を捨ててでもお守りしたい方です」
当たり前のことだ。即答する。何故かアカシア様は息をのんでいる。何で?もしかして、私は最後の最後で・・・いらない存在だって言われるのか?
「あ・・・かしあさ」
私の声は遮られる。
「・・・・・・。もぅ良いわ。邪魔したわね」
なんで?私は何を間違えたの?涙が・・・いや。アカシア様の目の前で泣くなんて失礼だ。・・・・・・・・・・・・・・。だけど。
「・・・。アカシア様」
私からアカシア様に話しかけたのは仕事以外で初めてのことだ。さっきから最後の最後だって思いまくってるんだ。そう。最後なんだ。もう話せない。会えない。・・・必要としてもらえない。あがいたって良いじゃないか。
「アカシア様。私は・・・。私はいなくて良かったですか?いない方が良かったですか。う・・・うまれて来ない方が嬉しかったですか?アカシア様はその方が幸せでしたか?」
これでイエスと言われたらどうしよう。でも・・・ノーと言われても・・・。いや。そんなのただの夢だ。
私はアカシア様の驚きで染まって行く目を見ながら笑った。初めてのことかもしれない。私が笑いかけたのは。何笑っているんだと怒られるだろうか。お前ごときが私に話しかけるなと言うのだろうか。それとも、無視していってしまわれるだろうか。 怖くてアカシア様を見れない。
「・・・。あなたは自分が私にとって何だと思う?」
考えるまでもない。
「駒です」
アカシア様は私にそっと手を伸ばしてきた。
叩くのだろうか?でも、そうするとアカシア様の手が痛い。
「・・・。いいえ。あなたは私の・・・ 妹よ」
のばされた手はそのまま私を抱き込んだ。
「なんで、あなたはさっきみたいな小難しい計算は高速でできるのに、こんなに簡単な答えがだせないのかした?まったく。あなたが、駒?何をいっているの。あなたは私の妹でしょう?あなたがいない方が良かった?何を言っているの。あなたは私のために。お父様のために。家のために・・・。何もかもを投げ出して来たのでしょ?」
でもでも。
「そんなのは当たり前です。私は・・・私は・・・。だって」
私を抱きしめる腕は温かかった。涙を堪えなくてはいけない。だってそうしないと、アカシア様の服がぬれちゃう。
「昔のことを水に流せなんて言わないわ。怨んでくれても構わないわ」
「怨むなんてっ。あるはずがありません」
「ねぇ、ロゥ。あなたは私の何?」
「・・・・・・」
「あなたは、私を信じないの?」
「・・・。お姉ちゃん」
抱きしめる力が強くなった。
「おね・・・」
目から我慢できなかった涙が溢れていく。
「・・・。ごめんね。私はあなたに酷いことをしたわ。それは許されるものじゃないわ。でもね。私はあなたのことがとっても好きよ。こういう気持ちになったのは2年前ね。あなたに守られていたことに気付いたの。あなたがやってきてくれたことを知ったの。ごめんなさい。今までもずっとこうしたかったんだけど、いつもいつもお父様のよこした護衛が見張ってて。今日はなぜかいなかったのよ。あなたの用意してくれた護衛だけでいいって言っていたのに。・・・」
そう。今日が決行の日だから。・・・。私ったらなに浮かれてんだろう。
唐突に話しかけられた。
「ねぇ、知ってる?今日が何の日か」
「・・・。お姉ちゃんが小学生3年生のころ、ピアノのコンクールで賞を受賞した日です」
部屋に沈黙が下りた。
私は何か間違えたのだろうか。
勝手に不安がっていると私を抱きしめるアカシア様が笑う気配がした。
「いいえ。違うわ。今日はね、あなたの誕生日なの」
「・・・?あぁ・・・そういえば。それが何か問題でもありましたか?」
「・・・。ねぇ、ロゥ。私の誕生日が来たらいつもどうしてた?」
「・・・。ケーキの予約もプレゼントのリストアップも飾りの用意も事前に準備は終えているはずですから、お姉ちゃんに気がつかれないよういつものように雑用をやっています」
「・・・。そう。じゃあその夜は?」
「もちろん、パーティに怪しげなものが紛れ込んでいないかのチェックです。食事の毒見はもう終えているはずですし」
「・・・。鈍い子ね。じゃあ簡単にするわ。誕生日の来た私は何をもらう?」
「プレゼントです」
「正解です。ということで、13歳になったよ。ハッピーバースデー、ロゥ」
「・・・・・・・」
ブワッ・・・。
「ずみばぜん。服が」
「気にしないの。私の様はそれだけよ。じゃあ、私はもう行くわね」
今しかない。今日しかない。言ってしまえ。
私は私は・・・誰だ?そう、私はアカシア様の妹だ。良いじゃないか。一度くらい言ってみたって。
「お姉ちゃんっ」
「何、ロゥ?」
「私はお姉ちゃんに何かすることができましたか?」
私は家の者皆に嫌われているのを知っていた。だけど、私の存在を知らない頃。アカシア様が私と目があった時、無邪気な笑顔を向けてくれたことは忘れない。正直逃げたかった。こんな生活嫌だった。むしろ死んでしまいたかった。 だけど。
私の存在を認めてくれた、私のことを知らなかったからだけかもしれない。だけど、確かに私に向かって笑いかけてくれた。たった一つの存在に私は確かに救われた。生かされた。
その時みたいにお姉ちゃんは笑った。そして、
「当たり前でしょ」
そして部屋を出て行く前に付けたした。
「あぁ、ロゥ」
「はい。なんですか?」
「あなた、せっかく可愛いんだから笑ってなさい」
「・・・・・。へ?」
「さっき笑ってたでしょ?いっつも無表情だから。笑えないのかと思った」
「・・・」
「あなたは、私の自慢の妹よ。胸張って笑いなさい」
「はい」
私は満面の笑みでこたえる。
あぁ・・・なんで今になってこんなに幸せなんだろう。私はやっぱり悪い子だ。私を捨てないとお姉ちゃんは救えないのに、私はお姉ちゃんと一緒にいたいと。
まだ、生きていたい
って望んでる。
調子にのって投稿しちゃいました。
眠い・・・