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第17話:天使さん、アルスの『お昼寝用お布団』にされる

クリスタル城のテラスで、元暗殺者のピエロ団が作ったバルーンアートを楽しんでいたアルス。しかし、その平和な午後の空を、一筋の鋭い「黄金の雷」が貫いた。

 

――ピキィィィィィン!!

 

空が割れ、そこから眩いばかりの純白の翼を持つ軍勢が降り注ぐ。

 

天界の執行官、『神罰の天使』たち。その数、およそ三千。

 

彼らは世界のソースコードを管理する「運営の末端」であり、アルスというイレギュラーを削除するために遣わされた。


「……不適切な個体、アルス・ルーフェウス。汝の存在は、この世界の物語シナリオを崩壊させた。……直ちに全データを初期化し、虚無へと還すべし」

 

先頭に立つ大天使ミカエル(自称)が、燃え盛る光の剣を掲げる。

 

その威圧感は、古龍シロや魔神アスタロトですら、思わず身構えるほどに神聖で、そして冷酷だった。


「……アスタロト殿。……ついに『上』が本気を出してきたか」

 

父グランツが、もはや驚きを通り越した虚無感と共に、震える手で剣の柄を握った。


「……閣下、下がりなさい。あれは存在そのものが『消去コマンド』。……私の魔力も、奴らの光に触れれば一瞬で書き換えられてしまう」

 

アスタロトが眼鏡を外し、真の魔神の姿を微かに現しながら、アルスの前に立ちはだかった。

 

だが、当のアルスは、温かな日差しの中で、こくり、こくりと船を漕いでいた。

 

お絵かきとお砂場遊びで、少し疲れちゃったみたいだ。


「……ふわぁ。アスタくん、お空にお星様がいっぱい……? あ、違う。白い鳥さんがいっぱいだ……」

 

アルスは眠そうな瞳で、空を埋め尽くす天使たちを見上げた。

 

彼にとって、天使の放つ「浄化の光」は、ただの「眩しすぎるお日様の反射」にしか見えていなかった。


「……アルス・ルーフェウス! 聞いているのか! 汝をアンインストールする! 『天界の業火サーバー・クリーン』を喰らえ!!」

 

三千人の天使が一斉に光の槍を放った。

 

世界を真っ白に塗り潰し、あらゆる生命の記録を消し去る、神の削除命令。

 

だが。


「……んん。……まぶしいなぁ。……お昼寝したいのに、そんなにキラキラしてたら、お目々が疲れちゃうよ」

 

アルスが、不機嫌そうに空へ向かって手をひらひらと振った。

 

【万物創造】の権限が、自分を消そうとする「削除命令」を、単なる「安眠を妨げる迷惑な光」として再定義する。

(えーと、この白い羽根さんたち。……すっごくふわふわしてて、あったかそうだなぁ。……あ、そうだ! これ、全部集めて、僕の『お昼寝用のお布団』になぁれ!)


 

パシュゥゥゥ……ッ!

 

アルスの指先から放たれたのは、攻撃魔法ではない。


それは、あらゆる物質を「極上の羽毛」へと変質させる、最強の『生活用品錬成』であった。

 

一瞬だった。

 

世界を焼き尽くそうとしていた三千本の光の槍は、空中で一瞬にして「ふんわりとした白いダウン」へと姿を変え、雪のように優しく降り積もった。


「な……ッ!? 我らの神罰が……羽毛に……!? 馬鹿な、そんな変換則、物理エンジンに存在しないはずだぞ!!」

 

驚愕する大天使の背後に、アルスの視線が向く。

「おじさんたちの羽根も、すっごく柔らかそうだね。……ちょっとだけ、お裾分けしてね! はい、リフォーム!」

 

光が爆発した。

 

三千人の天使たちの巨大な翼は、一瞬にして根元から切り離され(痛みはない)、それらが空中で合体。

 

巨大な、雲のような厚みの「最高級・神聖羽毛掛け布団シングルサイズ」へと編み上げられた。


「……あ、あれ? 我の翼が……無い!? 飛べない……落ちるぅぅぅ!!」

 

翼を失った天使たちは、バタバタと地面に落下していったが、そこにはアルスが事前に用意した「ふわふわのマシュマロマット」が敷き詰められていた。


「わあ、できた! アスタくん、見て見て! 世界一ふわふわなお布団だよ!」


アルスは空から降ってきた特大の羽毛布団に、ダイブした。

 

それは、神々の翼から作られた、究極の安眠具。

 

触れただけで魂が浄化され、赤ん坊のように深く、心地よい眠りに誘われる「禁忌の寝具」である。


「……師匠。……ついに天使を『原材料』になさいましたか」

 

イザベラが、震える手でその布団に触れる。


「……あ……ああ……。……なんて、なんて気持ちいいのかしら……。……神の怒り? リセット? そんなもの、どうでもいいわ……。……私も、ここでお昼寝したい……」

 

王国最強の魔導師イザベラは、そのまま布団に顔を埋めて、三秒で爆睡した。

 

落下した三千人の天使たちも、マシュマロマットの心地よさと、アルスから漏れ出た「全肯定の魔力」によって、戦意が完全に霧散してしまった。


「……きゅ、きゅぅぅ……(……主様、我が枕になります……。……ぐぅ……)」

 

星神竜キラも、アルスの頭の上で丸くなって眠りに落ちた。


「……ふふ。おやすみなさい、白い鳥さんたち……」

 

アルスは幸せそうな寝息を立て始め、王都の上空には、三千人の「翼をもがれてパジャマ姿になった元・天使」たちが、ぐっすりと眠るという、あまりにもシュールな光景が広がった。

 

……天界の管理画面。

 

そこには、エラーログが真っ赤に点滅していた。

『警告:執行ユニット三千名、接続断スリープモード。……原因不明の「多幸感バグ」により、再起動不能。……対象の個体、システム管理者権限(ルート権限)を保持している可能性、99.9%』

 

アルスの「無自覚な創造」は、ついに神の使いさえも生活雑貨へと変え、天界のシステムを「寝かしつけ」によって沈黙させてしまった。

 

……しかし。

 

天使たちの全滅を知った「真の創造主」は、ついに最終手段に出ることを決意した。


「……世界を一度、強制終了シャットダウンするしかないようだな」


物語は、ついに「世界の終わり」と、それを「おもちゃ」として遊ぶアルスの最終決戦へと動き出そうとしていた。

次回本日20時更新

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