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第16話:暗殺者さん、アルスの『お絵かき』で消される(浄化される

 庭に突如として出現した『クリスタル城』のテラスで、アルスは新しく遊び相手(自称・婚約者)になったシャルロッテ王女と、お絵かきを楽しんでいた。

 アルスが手に持っているのは、そこらの枝を【万物創造】で作り替えた「虹色に光る魔法のクレヨン」である。

「ねえ、シャルお姉さん。お城の壁に、大きなドラゴンの絵を描いてもいい?」

「ええ、もちろんですわ、アルス様! あなたの描く絵なら、きっと本物のように動き出しますわよ。……あ、お城の端っこに、私とあなたの相合傘あいあいがさも……」

 シャルロッテが頬を染めて提案した、その瞬間だった。

 クリスタル城の周囲の空間が、ガラスが割れるような音を立てて『真っ黒な亀裂』に覆われた。

「――光あるところに影あり。行き過ぎた創造は、世界の均衡バランスを崩す大罪なり」

 虚空から現れたのは、顔を不気味な仮面で隠し、漆黒のボロを纏った三人組の暗殺者。

 大陸の裏側で「神の代行者」を自称し、あまりに強大な力を持つ者を「」に帰してきた暗殺結社『虚無の秤』の執行官たちである。

「……アスタロト殿。……あれは、今までとは格が違うな。魔力の気配が一切しない。……文字通り『虚無』だ」

 父グランツが、本能的な恐怖に震えながら剣を抜いた。

「……左様でございますね。あれは『存在の消失』を司る、この世界のバグ修正プログラムのような連中。……私の魔力ですら、触れれば消される可能性があります」

 アスタロトが珍しく、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせてアルスの前に立った。

 リーダー格の暗殺者が、黒い短剣を掲げる。

「アルス・ルーフェウス。汝の『創造』は、この世界の容量メモリを圧迫している。……よって、汝の存在、およびこの歪な城を、根源から消去デリートする」

 暗殺者が短剣を振り下ろすと、そこから「真っ黒なインク」のような虚無の波動が放たれた。

 触れた草木は枯れるのではなく、最初から存在しなかったかのように消滅し、世界が白黒の塗り絵のように塗り潰されていく。

「……あ、お城が汚れちゃう! おじさんたち、落書きはダメだよ!」

 アルスが、ぷんぷんと怒りながら身を乗り出した。

 彼にとって、暗殺者たちの放つ『虚無の波動』は、単に「お城の壁を汚す、不気味なマジックの跡」にしか見えていなかった。

「えーと、この真っ黒なの……。……あ、そうだ! 『黒板消し』で消しちゃえばいいんだね!」

 アルスが空中で手をさっと動かした。

 【万物創造】の権限が、世界の消滅を狙う『虚無』を、単なる「チョークの汚れ」として再定義する。

(えーと、この黒いのを、全部『らくがき』にして。……この大きいお掃除道具で、ポンポンってお掃除するよ!)

 パシュゥゥゥ……ッ!

 アルスの手の中に、黄金の持ち手がついた『神話級の黒板消し』が出現した。

 アルスがそれを空中で大きく振るうと、そこから眩いばかりの「光の粉」が舞い散った。

 一瞬だった。

 世界を飲み込もうとしていた漆黒の虚無は、まるで黒板の粉が吸い取られるように、アルスの黒板消しの中にシュルシュルと吸い込まれて消滅した。

「……な、ななな、何だと!? 我らの『絶対虚無』が……掃除用具に……吸い取られただと!?」

 暗殺者のリーダーが、仮面の奥で絶叫した。

「次は、おじさんたちだ! そんな暗い服着てると、お友達ができないよ? ……もっと明るい色で、『らくがき』してあげるね!」

 アルスが虹色のクレヨンを、暗殺者たちに向けて大きく振るった。

「えいっ! 真っ赤な太陽! 黄色いお花! ……それから、みんな仲良しの『ニコニコマーク』!」

 光の軌跡が空を舞う。

 暗殺者たちが纏っていた「存在を消す黒い霧」は、アルスのクレヨンが触れた瞬間、一瞬にして「カラフルなクレヨン画」へと上書きされた。

 

 リーダーの胸には巨大な「ニコニコマーク」が描かれ、部下たちのボロボロの服は「真っ赤な水玉模様のパジャマ」へと書き換えられた。

 さらに、彼らの魂に刻まれていた「虚無への渇望」という設定が、アルスの無邪気な塗り絵によって「近所のお兄さん的な親しみやすさ」へとデバッグされてしまった。

「……あ、あれ? 俺……なんでこんなに暗いこと考えてたんだ……?」

 リーダーの暗殺者が、自分の水玉パジャマを見て、ぽかんと口を開けた。

「……そうだ。俺、本当は……ピエロになって、子供たちを笑わせるのが夢だったんだ……。……虚無なんて、ちっとも面白くないじゃないか……!!」

 三人組の暗殺者は、その場で涙を流しながら「コメディアンのポーズ」を取り始めた。

 彼らの手にあった暗殺用の短剣は、いつの間にか「バルーンアート用の風船」に変わっており、彼らは夢中になって犬やキリンの形を作り始めた。

「わあ、おじさんたち、面白いね! あ、その風船、僕にも一つちょうだい!」

「もちろんです、アルス様! 我ら『虚無の秤』……いえ、今日からは『爆笑のピエロ団』として、この世界の隅々に笑いを届けますぞ!!」

 かつて大陸中を震撼させた暗殺結社は、アルスの「お絵かき」によって、一瞬にして「移動式サーカス団」へと昇華されてしまったのである。

 一部始終を見ていたイザベラが、震える手でメモを取る。

「……師匠。……ついに『世界の属性アトリビュート』そのものを上書きなさいましたか。……虚無を笑いに変えるなんて、神話の書き換えもいいところですわ……!」

「あはは、ピエロさん、また遊びに来てねー!」

 アルスは満足げに、シャルロッテと一緒にクリスタル城の壁に、巨大なニコニコマークを描き続けた。

 

 アルスの「無自覚なリフォーム」は、ついに世界の裏側までを「明るい色」に染め上げ、あらゆる争いの火種を「おもちゃ」へと変えてしまった。

 だが、その様子を、遥か高みの『神界』から、恐ろしい形相で見下ろしている存在がいた。

「……人間ごときが、世界のソースコードを弄りすぎだ。……そろそろ、直接『管理修正アプデ』を加える必要があるようだな」

 物語は、ついに世界の創造主との対決へと向かおうとしていた。

次回本日12時更新

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