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第13話:宇宙人さん、アルスの『おもてなし』に降伏する

リフォームされた月の都『セレネ』。クッキーの香りが漂い、ネクターの噴水が虹色に輝くこの夢のような空間で、アルスは新しく友達になったゴーレムのポンくんと追いかけっこをしていた。


「あはは! ポンくん、足が速いね! 捕まえたら、特製のマシュマロをあげるよ!」


『アルス様、私の歩行ユニットは時速二百キロまで対応しております。……おや?』

 

ポンくんの瞳のセンサーが、上空の「異変」を捉えた。

 

月面の薄い大気圏(アルスが作成)を突き破り、見たこともないほど鋭利で無機質な、銀色の円盤型宇宙船が数十隻、音もなく降下してきたのだ。


「……アスタロト殿。あれは、帝国の艦隊か?」


父グランツが、食べかけのアイスクリンを置いて剣の柄に手をかけた。


「いいえ、閣下。魔力の波長がこの星の系統システムと全く異なります。……どうやら、さらに『外』から、招かれざる客が来たようです」

 

アスタロトが眼鏡をクイッと上げ、冷徹な魔神の眼光を空に向ける。

 

宇宙船から照射された光の柱から、全身を液体金属のようなスーツで包んだ、感情の読み取れない青い肌の「監視者」たちが降り立ってきた。


「――地球型第3惑星、衛星『ムーン』。未確認の事象改変を検知。……環境定数が書き換えられている。バグの発生源を特定……排除を開始する」

 

彼らは銀河の秩序を守る『星間監視機構』の調査員たちだった。

 

彼らにとって、アルスの【万物創造】は宇宙の計算式を狂わせる「ウイルス」に等しい。


「君たち、だあれ? お顔がピカピカしてて、かっこいいね!」

 

アルスが、物怖じせずに宇宙人たちのリーダーに近づいていった。

 

リーダーは無感情な声で告げる。


「個体名:アルス。君の存在は宇宙の整合性を著しく欠く。……直ちにその機能を停止シャットダウンさせてもらう。プラズマ拘束具、起動」

 

宇宙人が掲げた円筒形のデバイスから、太陽の表面温度に等しい超高温の電磁鎖が放たれた。


掠めるだけで物質を原子レベルで分解する、超科学の兵器だ。


「……あ、危ない!」


イザベラが叫ぶ。だが、アルスは「うーん」と首を傾げただけだった。

(えーと、このピカピカした紐。……ちょっと熱くて、チクチクするなぁ。……あ、そうだ! これ、冷たくて美味しい『そうめん』になぁれ!)


パシュゥゥゥ……ッ!


アルスの【万物創造】が、超科学のプラズマを、一瞬にして氷水で締めたばかりの『コシのある極細麺』へと再定義した。


「……え?」

 

宇宙人のリーダーの腕に、プラズマの代わりに「茹でたてのそうめん」がドサリとぶら下がった。

 

つゆのいい香りが月面に広がる。


「はい、おじさん! お腹空いてるんでしょ? これ、つるつるしてて美味しいよ!」

 

アルスは空中に、カツオ出汁の効いた特製のつゆが入ったお椀を錬成し、宇宙人に差し出した。


「な……ッ!? 高エネルギー体を、有機化合物(タンパク質)に変換したというのか!? 演算不能……計算が追いつかない! 我が文明の全知能を以てしても、この事象は証明不可能です!」


「ま、待て、リーダー! ……この『ソウ・メン』という物質、信じられないほど栄養価が高く、精神安定物質エンドルフィンが分泌されています! ……ズズッ。……う、美味い! 宇宙の真理がここにある!!」

 

調査員の一人が、我慢できずにそうめんを啜り、その場で感動に震えだした。

 

感情を捨て、効率だけを求めてきた宇宙人たちにとって、アルスが作った「全肯定の味」は、あまりにも劇的な毒……いや、福音だった。


「おじさんたち、そんなピカピカした服、窮屈じゃない? ……もっと楽なのにしてあげるね! はい、パジャマになぁれ!」

 

光が爆発した。

 

冷徹な銀色のスーツを着ていた宇宙人たちは、一瞬にして「くまさんの刺繍が入ったふわふわのパジャマ」へと着せ替えられた。


「……ああ、なんて……なんて柔らかいんだ……。……戦う意欲が、霧散していく……」

 

宇宙人のリーダーは、そうめんの椀を抱えたまま、月面のクッキーのベンチにポフリと腰を下ろした。

 

もはや「バグの排除」など、どうでもよくなっていた。


「ねえ、おじさんたち! 今度、僕の屋敷の裏庭に遊びにおいでよ! シロちゃんとキラくんも紹介してあげる!」


「……行きます。ぜひ、行かせてください。……我々の母星に報告せねばなりません。……『ムーンには神の幼稚園が存在し、我々は屈服した』と……」

 

宇宙艦隊は、武装をすべて「お土産のクッキー」に積み替え、パジャマ姿のまま宇宙へと帰っていった。

 

彼らは今後、アルスの「筆頭ファンクラブ(外宇宙支部)」として、地球を外敵から守る最強の防衛網になることを決意していた。


「……ふぅ。お友達が増えてよかったね、父上!」


「……ああ。……もはや、驚くことさえ忘れたよ」

 

グランツ辺境伯は、月面で宇宙人とそうめんを食べたという事実を、そっと脳の奥底に封印した。

 

アルスの「おもてなし」は、ついに星間戦争を未然に防ぎ、銀河全体に「パジャマとそうめんの平和」をもたらし始めたのである。

次回本日12時に更新

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