第1話:無自覚な神童、祝福のギフト
「アルス、お前のギフトは石を捏ねるだけの【練成】か」
そんな勘違いから始まった、僕ののんびりスローライフ(?)のお話です。
僕はただ、みんなと仲良く遊びたいだけ。
庭の枯れ木をダイヤモンドに変えたり、お空にジュースの雨を降らせたり、世界を消しちゃう怖い棒が出てきたから「物干し竿」にしてみたり。
気づけば、隣国の王女様は「お嫁さんにして!」とお砂場にやってきて、魔神さんは「お掃除はお任せを」と燕尾服で跪き、神様までが「肩もみのお礼」に世界の管理パスワードをくれました。
「ねえ父上、次はお月様をチーズに変えてピクニックに行こうよ!」
「アルス……頼むから天体の材質を書き換えるのはやめてくれぇ!!」
これは、自覚のないまま世界をリフォームし続ける5歳の少年が、うっかり銀河系を平和にしてしまう物語です。
大陸中央に位置するグランディア王国。その貴族街の一角にあるルーフェウス辺境伯邸は、いつも穏やかな空気に包まれていた。
この家は、領地の北方を守る厳格な武門の家柄として知られていたが、嫡男アルス・ルーフェウスの周りだけは例外だった。
「アルス坊ちゃま、本日は剣術の稽古の日でございますよ」
指南役の老騎士バルドが、頬を緩ませながらアルスに声をかける。
「えー、バルドさん。今日はもう飽きちゃった。昨日読んだ歴史書の内容が気になって……」
アルスは困ったように笑い、書斎の隅にある分厚い歴史書を指差した。
バルドは「仕方ないですね」と笑うが、内心では驚きを隠せない。アルスが昨日「飽きた」と言った剣術の稽古は、実はこのバルドをして「これ以上教えることはない」と言わしめるほどの達人芸だった。アルス本人は、それを「ちょっとした運動」としか認識していないのだが。
「アルス、今日の夕食は君の好きな森のキノコのポタージュだ。訓練はほどほどにしておくように」
父である当代辺境伯グランツが、執務室から顔を出す。
グランツは厳格な騎士だが、息子への愛情は深く、常に目を細めている。世間では恐れられている彼だが、アルスの前ではただの優しい父親だ。
「ありがとう、父上!」
アルスは嬉しそうに頷く。
両親の愛を一身に受け、アルスは素直で朗らかな少年に育っていた。
今日は、貴族の子息にとって最も重要な儀式、『ギフト(天賦の才)』の神託の日だ。
グランツ辺境伯夫妻とバルドに連れられ、アルスは王都の巨大な神殿へと向かった。
神殿には、王侯貴族たちが集まっていた。
誰もが自分の子供が優れたギフトを得て、家名の繁栄に繋がることを期待している。
「次、アルス・ルーフェウス様」
神官が厳かに告げる。
アルスは緊張もなく、きょとんとした顔で祭壇の前に立った。
バルドが心配そうに「坊ちゃまならきっと素晴らしいギフトです」と呟く。
アルスが水晶玉に手を置く。
水晶玉は、今までにないほどの眩い光を放ち始めた。神殿全体が、白銀の光に包まれる。
「こ、これは……なんという魔力の奔流!」
神官たちがざわめく。
水晶に表示されたギフトは――【万物創造】。
「【万物創造】……!?」
神殿が静まり返る。それは、数千年に一度現れるか現れないかという、伝説級のギフトだった。
周囲の貴族たちは、羨望と驚愕の視線をグランツ辺境伯に向けた。
「おめでとうございます、辺境伯閣下! これは王国始まって以来の神童の誕生ですぞ!」
「陛下にもすぐにご報告せねばなりませんな!」
父グランツは、驚きで目を見開いている。
アルス本人は、表示された文字を見て首を傾げていた。
「万物創造……? なんだか難しそうな名前だね。僕に使えるかな?」
「使えますとも、坊ちゃま! いえ、アルス様!」バルドが感極まって涙ぐむ。
だが、その場の誰もが知らなかった。
この【万物創造】というギフトは、単に物を生み出すだけではない。
世界の理そのものを、彼の思い通りに作り変えることができる、規格外のチート能力だということを。
翌日。
屋敷の裏庭で、アルスはさっそく自分のギフトを試していた。
彼は無邪気な笑顔で、目の前に転がっている普通の石ころを見つめる。
「えーと、万物創造ってことは……この石ころを、美味しいお菓子に変える、とか?」
アルスがそう念じた瞬間。
石ころは、世界最高級の素材で作られた、美しいマカロンへと変質した。
「わあ、美味しそう!」
アルスはそれを口に入れ、満面の笑みを浮かべる。
その光景を、たまたま通りかかったバルドが見ていた。
「お、美味しそうですな、坊ちゃま! それはどこの名店のお菓子で……?」
「ん? これ? さっき庭の石ころで作ったんだよ。バルドさんもいる?」
「石ころで……!? 坊ちゃま、それは【万物創造】の第一歩! 素材を問わず望むものに変える、伝説の『神の錬成』ではありませぬか!」
バルドは再び感極まって泣き崩れる。
アルス本人は、またバルドがオーバーに反応していると思い、ニコニコと笑っていた。
彼だけが知らない、規格外の神童の物語が、今、始まった。




