再会
「……そうかもしれません……。息子はもう、大人だったんですね……」
ふんっ。と師匠が鼻を鳴らした。
公爵は私の前に立つと、深々と頭を下げた。
「申し訳なかった……。ジャンを見ていたら、息子が小さかったことをよく思い出したよ。いやいやと首を振る姿が息子にそっくりなんだ。おいしいものを食べた時に目を輝かせる姿も。ぴよんと髪の毛が跳ねるかわいい姿も」
許せない。
確かにそう思ってはいたけれど。
この人は行方不明になった息子を愛していたことも事実だし、ジャンをかわいいと思ってくれたのも本心なんだと思うと、これ以上何も言えなくなった。
「幸せだったんだ。可愛い子供に恵まれつたない物言いで「おとうちゃま」と呼ばれるあの日々は……」
おとうちゃま?ママ呼びもいいけれど、おかあちゃまって呼ばれるのも素敵かもしれない。
一度、ジャンにおかあちゃまって言ってもらおうかな?
「……戦功をあげ、人に賞賛されることがあの子にとっての幸せじゃなかのかもしれないな」
ぼそりと公爵がつぶやく。
「まったく。話し合いも反省も後にしておくれ。まずはシャリアに子供返すことからだよ!」
シャッシャと公爵の足元を師匠が箒で掃いた。
公爵家の屋敷へと移動した。
立派な馬車で移動し、立派な屋敷に招き入れられる。
一応伯爵令嬢だったので、お屋敷と呼べる場所に住んではいたけれど、まるっきりくらべものにならない。
一瞬、ジャンにとっての幸せはどちらなのかと胸がギュッと引き締まった。
通された部屋はこじんまりとした応接間だった。
「ジャンは?」
部屋にジャンの姿はない。
「ああ、すぐに連れてこさせよう」
気遣いなのか、使用人は最低限に抑えられている。
ソファにどかりと師匠が腰かけた。
「ああ、そうだ。ギルドに使いをやらないとね。ジャンが見つかったと。ガルダとそれからエディにも連絡をしないと」
「使いが必要ならば走らせますが」
公爵の言葉が終わるか終わらないかのうちに、乱暴に部屋に人が入ってきた。
「父上!」
父上?もしかして英雄?
ソファから驚いて少し体が浮いた。
けれど、部屋に入ってきた男性は、私の想像していたような髪色の男ではない。ジャンとは似ても似つかない赤茶の髪の男だった。少しふっくらした体形は公爵には似ているけれど、とても英雄と言われる、戦功をあげるような鍛え上げた体にも見えない。
「どうした?」
「フェランディが戻ってきました」
公爵は私の視線に気が付いたのか簡単に説名してくれた。
「フェランディオルの兄だ。どうやら行方不明だった息子が戻ってきたらしい」
このタイミングで、英雄が?
「それで、どうした」
「子供を連れてきた男の言っていたことをいくつか質問したら身に覚えがあると……。確かにフェランディの子供に間違いないかと」
「そうか。それで?」
「フェランディはずいぶん驚いていたが子供に会わせてくれということで、部屋に向かわせ、父上に知らせようと……と、来客中とは知らず申し訳ありません」
公爵が首を横に振った。
「いや、ちょうどいい。……フェランディオルと子供をこちらに呼んでくれ」
英雄の兄が部屋を出ていくのを見送りながら緊張でどくどくと心臓が脈打つ。
「あー、まったくめんどうなこった。ジャンを連れてあとは帰るだけだと思ってたら英雄登場かい……」
はーと、師匠が息を吐き出した。
「今日は話し合いが無理そうなら日を改めてもらうかい?いろいろと思うことがあるだろう?」
うんとうなづく。
急にジャンの父親が現れるなんて想定外だ。
引き取りたいと言われたら?
結婚して一緒に育てようと言われたら?
養育費だけは払うけど関わらないでほしいと言われたら?
もし、そういわれるならジャンのいないところでしてほしいし、父親だと言うことはジャンに知らせないでほしい。
貴族の屋敷らしくなく、廊下を走る足音が聞こえてきた。
バタンと乱暴に扉が開くと、エディがジャンを抱っこして現れた。
「ジャンっ!」
悩んでいることなんてどうだっていい。
「ジャン、ジャンっ!」
「ママ!」
ジャンが私の胸に飛び込んできた。
「ジャン、会いたかった。会えなくて寂しかった。ジャン」
「あのね、ジャンね、いいこちてた。いいこでママ待ってた。ちょれからね、えっとね、パパがね、うんと」
パパ?エディをパパと呼ばせているなんて知られてはいけないと、慌てて口を開く。
らすとすぱーとぉ




