いざ決戦の地へ
「だって、父親は……亡くなったって……」
「あははは、嘘だよ。簡単に信じるんだもんなぁ。生きてるよ、一夜の花嫁のジンクスが聞いたかなぁ。英雄になって戦争から戻ってきた」
ジャンの父親が英雄……?
「英雄に会いたいなんて言ったって相手にされるもんか。自分が母親だと言っても財産狙いの女だと思われて終わり。取り返す方法なんてない」
シャルムはさらに続ける。
「よく考えてみろよ。ジャンだって、英雄の子として育った方が幸せに決まってるだろう?立派な家に住んで好きな者なんでも手に入って、しっかりした教育を受けて。そうそう英雄は次男だから家督は告げないが新たに公爵位を賜るって話だ。ジャンは未来の公爵様だぞ?むしろ、俺はジャンの幸せな未来のための手助けをしてやったんだ。感謝されてもいいはずだ」
アイシャさんが箒の柄をカンッと音を立てて床に卸した。
「この男の言葉にまた騙されるつもりかい!」
アイシャさんが私の腕をとり立ち上がらせた。
「騙される?」
「そうだよ。幸せの価値観なんて人それぞれだ。ジャンの幸せはジャンが決める。母親と無理やり引き離されて知らない場所に連れていかれたジャンが幸せだとでも思うのかい?ジャンが公爵になりたいってなら話は別だ。ジャンが自分でどうなりたいのか決められるときになってからだって遅くはないはずじゃないのかい?」
「……はい……」
そうだ。英雄の子として生きたい、公爵になりたい、何不自由なく暮らしたいと、ジャンが望めば送り出せばいい。
「まぁ、その前に、英雄がクズじゃなきゃ何の問題もないさね。ちょっと話し合いをしに行こうかね」
アイシャさんがカツンと箒を鳴らした。
立ち上がって、その背を追う。
「そいつはちゃんと捕まえておきな。たたけば埃だらけだろうよ」
冒険者がシャルムの両腕を捕まえて引きずった。
「離せ、俺は貴族だぞ!平民風情が生意気にっ!」
シャルムの言葉に振り向いて声をかける。
「本物の”クリス”さんに教えてもらったわ。勘当されて子爵、いえ男爵家にもはや籍はないって。平民のシャルム。いいえ、犯罪者のシャルムかしら?」
アイシャさんが笑った。
「あはははっ。そういうことじゃ。貴族じゃない犯罪者だ。それなりにもてなしてやれ」
シャルムが真っ青になって叫んだ。
「シャリア、頼む、助けてくれ、俺が悪かった、英雄にも俺がちゃんと話をしてやるから、だから、助けてくれっ」
立ち止まってしまった私の肩をポンと師匠が叩く。
「ほれ、英雄に会いに行くぞ」
そうだ。シャルムの力を借りなくたって、私には助けてくれるみんながいる。
「はい」
師匠の隣に並んでギルドを出る。
「でも、英雄とはどこに行けば会えるの?」
師匠が笑顔を浮かべた。
「ワシを誰だと思っておる。会いに行くんじゃない、呼び出すんじゃよ」
へ?
英雄を呼び出す?
師匠って、もしかして私が思っているよりもずっとずっとすごい人なのでは……?
今、私は謁見の間にいます。
……お城の。
王宮の。
王様のいる。
「アイシャ、緊急事態だと聞いたが、話を聞かせてもらえるか?」
アイシャさん、事前に連絡もなしにいきなり訪ねていって陛下にお会いすることができるなんて、すごすぎる。
いや、正確には城に行って「英雄に合わせろ、英雄を呼べ、今すぐにじゃ」って言ったら、ここに連れてこられたんだよね。
「お主に用はない」
ひぃ。陛下に向かってお主っ!




