出てきた英雄
「シャルムは家からも勘当されていますしね。親戚一同関わりは断っています。どこでどうしているのかまるっきりわかりませんよ」
シャルム、それがクリスの本当の名前。
家から勘当されているということは、すでに貴族ではなく平民になっているということだ。
じゃあ、貴族が集まる舞踏会に現れることもないということだ。
……一体どうやって探せばいいというの?
「うむ、何かシャルムについて分かったらギルドに知らせてくれるかの?例はするからの」
師匠が立ち上がった。
「ええ、分かりました。これ以上あいつに悪さをされては困りますし、協力は惜しみません。お礼は結構ですので、こちらにも見つけたら知らせてもらえますか」
師匠が本物のクリスと約束を交わして屋敷を後にした。
「さぁ、行くぞ!」
師匠が私の背中をばしりとたたく。
「行くって、どこへ?だって、もう……手がかりが……」
足に力が入らない。クリスがいたと、すぐに情報が手に入ると喜んだ分ショックが大きい。
「十分手がかりがあるじゃないか」
アイシャさんがにやっと笑った。
「どうしようもないろくでなしという手がかりが」
ろくでなしが手がかり?
ギルドに戻り、アイシャさんはお酒を飲んでいる男を捕まえた。
「シャルムって貴族崩れの20歳くらいの男を探してるんだ。顔はそこそこ整っているが、クリスだとかなんだとか名前を偽って悪さを働いてる男だよ。髪の色は……」
アイシャさんが私を見た。
「金です」
それから目の色体系服装などいくつかの特徴を伝える。
「最近大金を手に入れたとか、手に入るとかいう話をしてるかもしれないねぇ。探して連れてきてくれ。あ、こっそり頼むよ。いい儲け話があるとでもいえばほいほいついてくるんじゃないかね」
「はい。アイシャ様!」
男はすっと立ち上がると音もなくギルドを出て行った。
「あとは、待ってればいいよ」
男が使っていたテーブルに座り、お茶を注文する。
「本当に大丈夫なんですか?」
アイシャさんがにっと笑う。
「ろくでなしが行きつく先なんて想像がつくさ。飲む打つ買うって昔から言うだろう?」
出てきたお茶を一口飲んでアイシャさんが顔をしかめた。
お茶に何かあったのかな?と飲んだら、ずいぶん濃い紅茶だった。
「悪い奴らが集まるところはカモがいないかと手ぐすねを引くさらに悪い奴がいるもんさ。金回りがよさそうな男の噂はすぐに広まる。案外狭い世界だからね。さっきの男はそういった裏の世界の情報屋だよ」
「へー」
「ああ、思ったより早かったね」
アイシャさんがギルドの入り口に視線を向けたので、つられて視線を向けると、さっきの男と一緒にクリス……いや、本当の名前はシャルムだったか。シャルムが入ってきた。
視線が合うと、すぐにシャルムは驚いたように目を見開いた。
「シャリアっ」
何か私をだますための言い訳を考えているのか口をパクパクとしてからいつもの笑顔を顔に浮かべた。
「怪我はしてないのね。あれは何の血だったの?」
私の言葉に、嘘がばれていることに気が付いたのか、シャルムは背を向けて逃げようと足を動かした。
すぐにシャルムを連れてきた男が足を引っかけて転ばせる。
ギルドの入り口には別の冒険者が立ち封鎖した。
「馬鹿だねぇ。敵地に乗り込んで逃げられるわけがないだろう?さぁ、とっとと白状しな。ジャンをどこへ連れて行ったんだい?」
師匠が倒れたシャルムの背中にドンっと箒を立てた。
「それを聞いてどうするんだ?」
「もちろん、ジャンを取り返すのよ!」
床に這いつくばっているシャルムにの横に座り、シャルムの顔をにらむ。
「無理だ」
「無理じゃないわ!」
シャルムがにやにやと悪びれもせずにやついた。
「取り返せやしない。相手は公爵だ」
公爵?
「しかも、ジャンの父親は英雄だ」
「は?」
英雄って……。




