ダンジョン踏破
「緊急事態?何があったんだ?」
「シャリアとエディのサポートだよ。何かあったら助けるためのね。詳しい話は移動しながらだ。あ、携帯食を2日……いや念のため3日分。それからいざというときのポーション類も準備しな」
ギルド長はアイシャさんに頭が上がらないのか、言われるままに慌てて準備を整えた。
「さぁ、最下層、ボスだよ。やっちまいな!」
アイシャさんの言葉に、私とエディはボスへと突進していく。
「あーあ。若いってのはうらやましいなぁ。あっという間に最下層まで来ちまったなぁ」
ギルド長がぼやいているけれど、ここに来るまでにはずいぶん師匠とギルド長の助けがあった。
もちろん、私とエディ二人で倒しきれないから助けてもらったというわけではないのだけれど、私とエディが休憩する時間は師匠とギルド長が魔物を倒してくれた。なんていうか、交代制だったおかげでずいぶんと時間の短縮になったと思う。
エディと二人だったら単純に倍の時間はかかっていただろう。
「若さじゃないよ。愛だろうよ、愛」
アイシャさんの言葉にギルド長がうなり声をあげた。
「馬鹿孫が勘違いするんじゃないよ!ジャンに対する愛だよ。愛する子供を取り戻そうという母親の愛に勝る愛などありゃしない」
ごちんと聞こえたから、どうやら背後でギルド長はアイシャさんに拳骨を落とされたみたいだ。
「いいかい、ひよっこども、ここではワシらは手伝わんからの!死にそうになった時だけ助けてやる」
アイシャさんの声が聞こえた。
「もう駄目だと思ったら助けを求めろよ!いつでも助けてやるからなエディ!」
ギルド長のあおるような言葉に、エディがふっと笑いを漏らしながら、ボスへと切りかかっていた。
手にはギルド長から借りたアダマンタイトの長剣だ。
ボスはドラゴン。今まで倒したことのあるドラゴンの3倍は体が大きく、首も尾も3つある。まるで3体のドラゴンを同時に相手にしているようだった。ドラゴングウィ……エンシェントドラゴンの一種だ。
何度ももう駄目だと思った。
だけどあきらめるわけにはいかない。
ジャンを助けるため。この手に取り戻すため、私はミスリル級にならなければならないのだから!
エディもボロボロになっている。
「エディ、無理ならば……」
私のために無理をさせるわけにはいかない。
「無理なんてしていませんよ、大丈夫です……ですが、このままではらちがあきません」
エディの言う通りだった。首を一つ落としても他の首が襲い掛かってくる。その間になんてお落とした首が再生するのだ。3つの首をほぼ同時に落とすしか倒す手段がなさそうだ。私とエディが同時に2つ首を落とし、高速でエディがもう一つの首を落とそうとしたけれど、エディのスピードをもってしても再生を防ぐことはできなかった。というよりも、再生せずとも同時ではなかったからダメだったのかもしれない。
「シャリア、攻撃をよけられないように動きをとめることはできる?」
エディの言葉にうんとうなづき、仕込み箒の剣を置いた。
「任せて」
ドラゴングウィの真ん中の尾の根本をつかむ。
身体強化は重ね掛け8。もう一つかけられないかと試したらかけることができた。ここに来るまでにレベルが上がったようだ。身体強化重ね掛け9。
尾の一つをつかまれ自由を奪われたドラゴングウィは、他の2本の尾で私を排除しようと執拗に攻撃を繰り出してくる。
「くっ」
さすがに伝説級の魔物だけはある。
身体強化を9も重ねてかけているというのに、棒で強く打ちつけられているかのような衝撃を受ける。
「耐えろ……」
痛みなんてどうってことない……。
手を離しちゃだめ。
痛い……。痛いけれど。
「ぐあぁぁ」
痛いけれど、体の痛みなんて、いくらだって治すことができる。
でも、ジャンを失ってしまった心の痛みは、治ることがないだろう。絶対に取り返す。
「離すものですかぁぁぁぁぁ!」
「シャリア、あとは任せた!」
エディが最上級魔法を放つ。巨大なドラゴングウィの上半身を吹き飛ばし、爆風で私の体も吹き飛ばされ受け身も取れずに壁にぶち当たった。
……ドラゴンの尾の攻撃よりも大した衝撃はないので、すぐに立ち上がる。
上半身が消えたドラゴングウィの体は再生することはなかった。
「よくやった」
アイシャさんがポーションを投げてくれた。
受け取ると、すぐに倒れているエディの元へと駆け寄る。
ただの魔力切れだとは思うけれど、それでもピクリとも動かないエディが心配で胸がぎゅっとなる。
魔法を放つ前に何度も攻撃を受けてボロボロになって血も流れていた。
「エディっ!」
呼吸があることにほっとするけれど、このまま血を逃せば無事でいられるとは限らない。
ポーションのふたを取りエディの口に当てるけれど、意識を失っているエディの口にポーションを流しこんでも口からこぼれるばかりだ。
どうしよう……。
おろおろとしていると、アイシャさんの声が聞こえてきた。
「あー、もうじれったいね!貸してごらん、こうするんだよ!」




