妊娠発覚は突然に
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「どれくらいたまってるんだ?装備を買う金」
うっ。
ギルド長の言葉に視線を逸らす。
「半分、くらい……?」
ギルド長が目をむいた。
「はぁ?3年たったのに、まだ半分?」
あきれた声を出される。
「仕方ないでしょう!買おうと思ってる武器は高いし、それに、育児にはお金がかかるんだからっ!」
そう。
育児中なのだ。
一夜の花嫁で、子供が出来た。
いやいや、大騒ぎだったよね。
住む場所も見つけ、冒険者として順調にスタートした私。
一人で生きていくのも順調で、むしろ貴族として生きていくよりむいているかも?
なんて、考えていたら突然の吐き気。
そう、吐き気に襲われたあの時……。
何日も続く吐き気に、さすがにおかしいと思って医者にかかった。
ギルドの隣に病院があるので、依頼を受ける前に足を運ぶ。
「妊娠、していますね」
「は、い?」
頭が真っ白になった。
妊娠?
「えーっと、悪い病気じゃなくて?」
身体強化魔法が使えるようになってから、怪我だけじゃなくて病気にも毒にもあらゆるものに強くなった。
だから、そんな私が吐き気を感じるなんて、よほど悪い病気か呪いかと、死も覚悟していたというのに。
「病気ではありませんよ。その吐き気はつわりと言って」
医者が妊娠について説明してくれたけれど、まったく頭に入ってこなかった。
妊娠って、思い当たるのはあの一夜の花嫁のあれだけだ。
……父親が誰かも分からない。あの時のあの人だということだけははっきりしているけれど、顏も見えなかったし、名前も知らない。
あの人が誰か知っているクリスはどこかへ行ってしまい調べようもない。
それに……。
北の戦線の噂は街でもちょくちょく耳にする。厳しいと言っていたように、隣国との争いに加え、もともと強い魔獣が多く住む北の山付近が戦地となっている。
敵との闘いに加え、昼夜を問わず魔物を警戒しなくてはならずかなり厳しいと。
生死も分からない。生きていてほしいと願ってはいるけれど……。
両親にも頼れない。伯爵令嬢だった時の友人も。
あれ?どうすればいいんだろう……。
そうだ、お金。お金がかかるんだよね。産んだらしばらく働けないから、生む前にお金を貯めなくちゃ。
乳母を雇わないといけないんだっけ?庶民はどうしてるんだろう?
乳母を雇うなら、いくらかかるのかな。乳母はどこで探すの?
とにかく、お金……そう、お金を……。
医者にお金を払い、ギルドに向かう。
受付のミーニャさんに依頼表を出す。
鈍色札の私が受けられる依頼の中でも一番高いものを選んだ。
「シャリアさん顔色が悪いわ、今日は休んだ方が……」
心配そうなミーニャさんに笑顔を向ける。
「大丈夫です。さっき、医者に行ってきて、病気じゃないとお墨付きをもらいました」
「え?でも、本当に顔色が悪いわよ?」
ミーニャさんが尚も私の心配をする。
「ちょっと吐き気はするけれど、これはつわりらしいんです」
「つ、つ、つ、つわり~?!」
ミーニャさんが驚きの声を上げた。
そして、私がカウンターに置いた依頼表をがっと取り上げポイっと後ろに投げ捨ててしまった。
「何、魔物倒しに行こうとしてるのっ!」
「子供を育てるにはお金がいるんだよね……?働かないと……」
ミーニャさんが私のほっぺたを両手で挟んでむにゅッとする。
「おーばーかーっ!ちょっと、ちょっといらっしゃいっ!」
ミーニャちゃんが私の手を引いてギルド長の部屋へと連れて行く。
「ギルド長!子供が出来ました!」
バンっとドアを開くミーニャちゃん。
「責任を取ってくださいっ」
ギルド長のガルドさんが、持っていた書類をバサバサっと落として棒立ちになっている。




