銀色級のお祝い
家のドアを開くと、奥からエディが両手を広げながら向かってきた。帰っていたんだ。
「パパしゃんっ」
いつものエディとジャンが逆の立ち位置だけれど、いつもと同じように抱き上げている。
「シャリア、見てくれ!」
エディが嬉しそうにギルドカードを見せてくれた。
「わー、ぴかぴか。ママといっちょだ」
「おめでとう、!エディも銀色級になったのね!」
早っ。もう追いつかれちゃったんだ。ちょっとショック。
「シャリア、実は今日以外にも時々ソロで依頼を受けていたんだ」
私が何を考えているのか分かったのかエディが言葉を続ける。
「そんなに、ショック?」
「え?あ、ううん。違うよ」
「でもなんか顔色が悪いよ?」
それは、この町から逃げることになれば、エディとも会えなくなるから。
「そりゃ、まさかエディも今日銀色級になるなんて思わなくて、今日は私の昇級パーティー、今度エディの昇給パーティーと2回楽しめるはずだったのに……!と思って」
私の下手な言い訳に、エディは笑って答えた。
「大丈夫、今日はシャリアの昇級パーティー、僕のは来週にしよう!」
「ジャンは?ジャンのぱーちーは?」
「あはは、そうだな、ジャンのパーティーもしよう!なんのパーティーにしようか?」
エディが振り返って私の顔を見た。
エディが驚いた顔をして、私の頬にそっと手を当てた。
「どうしたの?」
ああ、私、また泣いてしまっているのか。
「幸せって、こういうことかなって思ったら……ご、ごめんなさい驚かせたわね」
エディの手から逃れて、ハンカチで涙をぬぐう。
「僕も……幸せです……」
ハンカチで目を押さえている私の頭上から声が降ってくる。
「こんなに幸せで、怖いくらいです」
怖い?
幸せとは不釣り合いな言葉に顔を上げる。
「怖い思いはたくさんしてきたけれど、今が一番怖い……」
「幸せじゃないの?」
エディがフルフルと小さく首を振る。
「幸せだから。この幸せを失うのが怖い……」
エディの小さなつぶやきが胸に響く。
「私も……」
この幸せを失いたくない。
だけど、私の一番怖いのはジャンを失うことだ。
だから……。
ハンカチをポケットにしまうと、かさりと小さな音がした。
クリスから渡されたメモだ。
「まさか二人とも同じ日に銀級に上っちまうとはねぇ。シャリアも規格外だが、エディも相当だね」
食卓に食事を並べながらアイシャさんが関心したように声を上げる。
「僕の場合は北で魔物を倒していた経験があるので」
アイシャさんがうんとうなづいた。
「そういやぁそうだったね。しかし、ジャンが学校に行く頃の年齢になったころには、二人ともプラチナ級どころかミスリル級になってたりしてねぇ」
「ミスリル級って、国内でも数えるほどしかいないすごい人ですよ。エディはともかく私は……」
冒険者を続けているかも分からない。
ジャンをジャンの祖父が探しているとして、私が冒険者をしていることはすでにばれているかもしれない。町を出て逃げたとしても、冒険者としてギルドに出入りしていればすぐに見つかってしまうだろう。
隠れて冒険者を続けるなんて無理だ。
ああ、どうなってしまうのだろう。不安しかない。
少し貯金ができたからそのお金で当面の生活費はなんとかなる。
学園に通わせるのが夢だったけれど、自ら捕まえてくれと出ていくようなものかな。
ううん、もうその年になればジャン自信がいろいろと選んで決めることができる。
10年……。そう、10年身を隠せば。
「ミスリル級になれば、どこにいても噂は届くでしょうね」
もう会えなくても、噂を聞くことはできる。それは唯一の救いかもしれない。
「噂って、僕がミスリル級になるときには、隣にはシャリアがいるでしょ。また今日みたいにお祝いしてくれるでしょ?」
そうとも違うともいわずあいまいに笑う。
「ねぇ、明日は休みにしましょう!エディもつかれているでしょう?私も昇級の余韻に浸りながらゆっくりジャンと過ごすわ!」




