幸せの向こう側
「パパしゃん?」
ああ、エディの名前をつぶやいたから……。
ジャンにとっては、やっぱり本当の父親と過ごす方が幸せなんだろう。もちろん、ろくでもない人ならその限りじゃないけれど……。実の父親で、お金持ちで、貴族で、誠実で優しい人なら。
結婚して両親がそろっていれば、学園へ通っても、社交界に出ても、誰にも後ろ指をさされるようなことはないはずだ。
大丈夫。
私の一番はいつだってジャンだ。ジャンがいれば、私は幸せになれる。
すぐに、慣れるはずだ。新しい生活になっても。
エディと会えなくなっても。
のろのろと歩いて、ケーキの売っているお店についた。
甘い香りが店内いっぱいに広がる。
「うわー、匂いがおいちい」
ジャンが飛び切りの笑顔を見せた。
「おいしそうな匂いね」
「おいちそうじゃなくて、匂いがおいちいの」
匂いが、おいしいの?
ああ、でも、この甘い匂いを嗅ぐと、おいしいものを食べた時のような幸せな気持ちになる。
少し気持ちが落ち着いた。
ショーケースを見るジャンの顏。目が零れ落ちそうなほど開かれ、キラキラと輝いている。
「ジャン、どれにしようか」
苺のジャムに、ラズベリーのジャム。ブルーベリーにオレンジ。
薔薇のジャムなんてものもある。それから、ミント……え?ミントのジャム?
いろいろ種類があって。
「じぇんぶ!」
というジャンの言葉に、思わず「そうね!全部食べたいね!」と答えてしまった。
会話を聞いていた隣にたっていたご婦人がふふっとほほえましげに笑った。
「この店は初めて?」
「うん、ジャン、はじめて!」
ご婦人の言葉にジャンが元気よく答えた。
「店内飲食もできるのだけれどしていっては?」
今すぎかぶりつきたいという顏をしてしまっていただろうか。
「家族の分も買って持ち帰るので」
と自然に口から出ていた。
エディと師匠の分を買って帰るのに。家族じゃないのに。
ご婦人が声を潜める。
「店内飲食だとね、小さなケーキが4つ乗ったミックスケーキセットが食べられるのよ。どんな味のケーキなのか試してみるのにちょうどいいわよ」
そうなんだ!
「教えてくれてありがとうございます、食べていきます!」
私とジャンだけケーキを食べて帰る後ろめたさがこれでなくなる。
「ジャン、一番おいしかったケーキをお土産で買って帰るために、お店で食べてみようか」
「うん。ジャンたべてえらぶ!」
ミックスケーキセットを2つ注文し、テラス席に案内される。
すぐに、小さなケーキが4つと紅茶のセットが2つ運ばれてきた。
ケーキは選べたので、私の分とジャンの分は全部バラバラにした。まずは全部半分にして、全部の種類を私もジャンも楽しめるようにさらに載せる。
「いたーきまちゅ」
ジャンがケーキを口に運ぶ。
私も目の前のケーキをすぐに食べたいけれど、これおいちい、これまじゅいとジャンが言うときのためにジャンより遅れて食べる。
もっと食べたいいやいやが始まると厄介だというのもあるけれど、単にママのも食べる?と甘やかしたいだけなのだ。
3つほどジャンが食べたので、そろそろいいかなと、ケーキを口に運ぶ。
「おいしい」
「うん、おいちいね」
ジャンがおいしそうに食べているのを見ながら食べると余計においしい。
幸せだ。
冒険者として順調にランクが上がっている。
それに伴って収入も上がっていて、貯金もだいぶできた。ジャンを学校に通わせる費用ももうたまりそう。
それはパーティーを組んでくれているエディのおかげもある。動きが速い魔物は私一人では倒すのに苦労するから。身体強化で魔物に倒されることはないけれど、依頼を達成するためにはかなりの時間がかかっていたはずだ。
ずっとこんな幸せが続くといいのに……。
「アリー」




