ケーキを買いに
私が3年と数か月かかったところまで、数か月で駆け上がってくるんだね。
……とはいえ、ミスリル級を目指すと言っていたし、私に追いつくどころか、私を追い抜いてどんどん先へ進んでいくんだろうな。
「わかった。夕飯までには戻れる?」
エディが頷く。
「もちろんっ!」
追い抜かれるのが悔しいという気持ちはない。
ただ、私が足手まといになって、パーティーを解散しなければならない日を想像すると寂しくなるだけだ。
私ももう少し上を目指すつもりはあるけれど、生活の中心はジャンだ。寂しくなるからといって一緒にゆっくりレベルを上げていこうよなんて言えるわけがない。
「でも、今日は17の鐘が鳴るころには来てくれると助かるわ。ギルド職員だった時に、私は17の鐘で帰っていたから、ジャンもそれまでは待てると思うの。明日からは夕飯までには戻ると朝に言うようにすればジャンのいやいやもないと思うから」
「ありがとう、じゃあ、行ってくる!」
エディが依頼票を見に行った。
「夫婦みたいな会話ねぇ……」
ミミリアがくすっと笑う。
「もう、このまま結婚しちゃえば?」
と、小さな声で耳打ちしてきた。
「なっ、何を言ってるの、私がエディと結婚するわけないじゃない、わ、私は恋愛とかもう、する気なんて」
ミミリアは私の言葉を右から左へと受け流す。
からかわれたんだと思ってミミリアを軽くにらむと、銀色のギルドカードを私の顔の前にぶら下げた。
「はい、銀色。次から金級の依頼も受けられるようになるわよ」
銅色と違い、銀色に輝くカードの美しさに、からかわれたことなどすっかり忘れて目が輝く。
「すごい、きれい」
手入れをしないと黒ずんでくるし、使っているうちに傷もついてくるけれど、作り立てのカードはつるつるピカピカ。
そうだ!帰ったら、昇級のお祝いをしよう!
自分で祝うのもおかしいけれど、おいしいものを食べよう!
「ただいまー!」
家に戻ると、てとてととジャンがかけてきて、きょろきょろと首を動かす。
「パパしゃんは?」
うん、そういうと思った。
「見て、ジャンっ!」
服の中に入れておいたギルドカードを取り出してジャンに見せる。
「ほわー、ピカピカなの」
アイシャさんが奥から現れた。
「おや、銀級になったのかい?」
うんとうなづく。
「エディはもう少しで銀級になれるって聞いてソロで依頼を受けてから来るって」
「パパしゃん、おちょいの?」
ジャンを抱っこする。
「今日は銀級になったお祝いだよ。ママとケーキを買いに行こう!」
「ケーキ!ジャン、ケーキしゅき!」
この半月で、エディが時々食べ物を持ってきてくれるようになった。
ケーキもその一つで、すっかりジャンは虜だ。
アイシャさんに声をかけてケーキを買いに出かける。
まだ昼を少し過ぎたところだ。
「ジャン、どんなケーキが食べたい?」
「うんと、ジャンね、あまくて、ふわふわのがいい!」
まだジャンはいろいろなケーキを知らなかったんだ。
どうしようかな。
「ママは?」
「ママはね……」
伯爵令嬢だった時にお茶会にも呼ばれいろいろなお菓子も食べる機会があったけれど、だいたいはその家の料理人が作ったお菓子だ。買おうと思って買えるものではない。
王都から少し離れたこのスピルドの街で帰るケーキと言うと……。
「そうだ、ジャムが生地に混ぜ込んであるケーキがおいしいって聞いたわ!」
「ジャン、ジャムもケーキもちゅき」
「よし、じゃあ、買いに行きましょう!」




