逃げる男ども
「本当は鈍色級の子に声をかけたりしないんだけど、君かわいいから特別に入れてあげてもいいよ?」
あ、これ知ってる。
貴族社会でもあった。上位貴族が男爵令嬢に特別だよと招待状を出して、やってきた子の悪口をみんなで言っていじめるやつとか。ドレスがダサい古臭い安っぽい、マナーがなってない図々しい、などなど。あとは、わざと男爵令嬢が知らないような話題で盛り上がって話を振り、知らないのと馬鹿にするとか。
これ、うっかりどこかのパーティーに行く?入る?とかすると「そんなことも知らないの」とか「ろくな装備も持ってないな」って、笑われるやつだ。
怖い。
冒険者といえども、貴族と似たり寄ったり、ろくでもない人間はいるんだね。
貴族社会だと、上位貴族に逆らえず断るに断れないなんてこともあるけれど、冒険者だとどうなんだろう?
とりあえずギルド長は偉い人。あとは?
私は新人なので冒険者の中でも最下層のはず。断っても大丈夫なんだろうか?
分からなくて首を傾げると、ギルドカードの裏からぶら下げてある角が揺れて出た。
「えーっと、君のそれ、牙?角?」
うん?
声をかけてきた男の人が指さした。
「サイクロプスの角です」
と、答えると、目の前から男の人が消えていた。
どういうこと?
「おいおい、嬢ちゃんみたいな子が、何でこんなところで飯食ってんだ?」
もぐもぐごっくん。あ、私のこと?
「俺がおいしいもん食わしてやるよ。遠慮するな、こう見えて結構稼いでるんだぜ?」
と、何故かカードを出して私に見せた。
あれ?私のカードは鈍色だけど、この人のカードは銀色だ。
何で色が違うんだろう?と、首を傾げたら、ギルドカードの裏から角が揺れて出た。
「げっ」
男の人が口を押えてどこかへ行ってしまった。酒の飲みすぎで吐き気でも催したのか。
まぁいいや。金をちらつかせて女性に近づく人には碌な奴がいないって姉が言っていた。
……だから、クリスはお金がないから大丈夫だと思ったのがあだとなった……結局どっちなのだ。
金をちらつかせない男でもろくでもなかったぞ?
「かわいいね、僕が手取り足取り冒険者のイロハを教えてあげるよ!」
顔を上げると私と同じくらいの年齢……17,8くらいの青年がいる。
カードは見えない。あれ?見える位置に出しておかなくてもいいの?顔パスとか?
首を傾げたら、角が……男の人はいなくなっていた。
====アイシャの孫 ギルド長ガルド視点========
「なぁ、あれを教えたのは誰だ?」
食堂でおいしそうにパンを食べてるシャリアを指さす。
「あれとは?」
「ギルドカードにぶら下げてるあれだよ。冒険者ランクよりも実力がある者が、倒した魔物で実力を示すあれ」
シャリアの対応をした受付嬢のミーニャに尋ねるとすぐに返事が返ってきた。
「アイシャ様です」
「ばぁちゃんか……。しかし、サイクロプスとはA級の魔物だろう?単独で倒せるものか?ばぁちゃんが力を貸したんじゃないのか?」
俺の疑問に、ミーニャが首をフルフルと横に振った。
「シャリアさん本人も、私の力じゃないとおっしゃっていたので、アイシャ様に確認したところ、武器を貸しただけだそうです。その点が自分の力じゃないという話になったのかと」
ああ、そういえば、何も武器らしい武器を持っていないどころか……。
ちょっといいとこの町娘のお嬢さんが着てるようなワンピース姿だ。薄桃色でスカートがふわふわした格好。冒険者らしさのらの字もない。
「まるっきり何もわかってなさそうだな……」
はぁーとため息をつく。
「いろいろ手を貸してやってくれ。優秀な冒険者はいくらいてもいいからな。順調にいけば数年後にはプラチナどころかミスリルが狙えるんじゃないか?」
ミーニャははいと頷いた。
なんて会話をしてから3年。
シャリアは、いまだに一番下の鈍色のギルドカードをぶら下げていた。
「おいシャリア、いい加減武器と装備を揃えたらどうだ?」
ギルドで受付嬢として働いてるシャリアに声をかける。
「えー、だめですよ。お金がないんです」
「金なら」
その首からぶら下げているサイクロプスの角と、ファイヤードラゴンの逆鱗と、フェンリルの牙を売れば……。
視線を向けると、すぐにシャリアがぷすっと頬を膨らませる。
「ギルド長、これは、いざという時用です。売りません。ちゃんと武器と装備を買うお金は溜めてます!」
シャリアがプルプルと首を横に振った。
====ガルド視点終わり===




