おててちゅなぐにょ
「う、ううん、ジャンは大喜びだったから……その……ありがとう」
エディはジャンを楽しませようとしてくれていたのはよくわかるから。お礼を言う。
「でも、今度から、ジャンと二人で乗って!私は遠慮するから!」
これだけは念押しをしておく。
エディがちょっと寂しそうな顔をする。
「じゃあ、本物の馬は?一緒に乗ってくれる?」
「え?本物の馬……?もっと怖いのでは?だって、木馬は止まっているけれど、本物の馬は走るんだよね?あの高さで走っている馬から落ちたら……落ちたら……」
身体強化を重ね掛けしておけば痛みも感じないのでは?
「落ちないように、しっかり抱きしめるから」
「だ、抱きしめるって……」
顔が赤くなる。
「違う、抱きとめる?あ、なんていえば……そう、支える、支えるから……」
エディが慌てて言い直すけれど、頭の中にエディが私を抱きしめるという想像が浮かんでしまって、消え去ってくれない。
「ちゅぎ、ちゅぎあっちよ!」
ジャンが走り出した。
「こら、ジャン、勝手に行くと迷子になるわよ!」
慌ててジャンの後を追う。
「そうだぞ、ジャン。迷路っていうのは迷う路って書くんだ。迷子にするための場所だぞ!」
私より後に動きだしたのに、速いエディはあっという間にジャンを捕まえて抱き上げた。
うー、速いってずるい。
「迷子、こあい」
そうそう。怖いのよ。迷子になったら。それはしっかり教えてある。
「おてて、ちゅなぐ、迷子にならない」
「うん、よく覚えてるわね。ジャン偉いわ。手をつながないと迷子になっちゃうからね?」
エディが手を伸ばして私の手を指さす。
「おてて、ちゅないで、迷子いや」
きゅぅーん。かわいい。
ジャンってばなんてかわいいのかしら。
ジャンの手をぎゅっと握る。
「ちあう、ちあう」
違うって、何が?
「迷子になるの、おててちゃんとつなぐの」
ジャンに手を振り払われた。
どうして!
「ママとパパしゃんが迷子になりゅ」
は?
「おててちゅながないと、迷子になりゅ」
まさか、私とエディが手をつないで歩け、と?
「大丈夫よ、大人は手をつながなくても迷子にならないから」
と言っても、ジャンの目には涙がたまっている。
「迷子になると、会えなくなる、いやいや。ジャン、ママと会えなくなるのいや」
これは……迷子になると大変だと脅しすぎたのかな?いや、これくらいじゃないと本当に迷子になったら困るし。
「てて、ちゅなぐの、ちゅながないと迷子ににゃるの」
今にもイヤイヤと泣きだしそうだ。
周りにたくさん人がいて大泣きされるのも迷惑かなと思ったけれど、かといってエディと手をつなぐなんて、エディさんに迷惑をかけてしまう。どうしようかと思っていたら。
「シャリア、この公園は初めてなので、迷子にならないように……」
と、エディが手を差し出した。
躊躇する私の耳元でエディがささやいた。
「貴族は女性をエスコートすることが日常なんで、その、僕のことを考えて遠慮しているなら、遠慮は必要ないです。シャリアが嫌じゃなければ、お手を」
私が気負わないようにと思っての言葉だろう。
これ以上手を取らなければ、まるで私がエディを嫌っているみたいに思われちゃう。
と、差し出された手にそっと手をのせると、そっと握られた。
「ジャン、これで迷子にならないよ。次はどこへ行くか教えて」
「うんとね、あっち」
エディの何度も豆が出来てつぶれて硬くなった手のひら。
私の負担にならないようにふわりと握られた手のぬくもり。
エディはエスコートすることが日常なんて言ってたけど、私が知らないとでも思ったのかな。
貴族はよほどのことがない限り触れ合ったりしない。エスコートするときは手袋をはめている。
こうして……。
手袋もはめずに手をつなぐことなんて、無いのに。
私がエディの手のひらの硬さを感じているように、エディも私のカサカサになった荒れた手を感じているのだろうか。
……恥ずかしい。
別につるつるすべすべの手じゃないから恥ずかしいということじゃなくて……。
こんな風に、肌を感じたり、感じられたりすることが、恥ずかしい。




