先のこと+クリスサイド
「父親……として。いや、父親代理としてエディと過ごしたい」
「エディ……」
「父親なら、子供に勉強を教えたり、子供に剣の訓練をつけてあげたりするだろう?」
そうだけど……。
「僕を、シャリアの輪の中に入れてほしい」
どうして、そこまで?と尋ねようとしたけれど。
もしかしたらエディも私と同じ、何もかも失ってしまったからなのかも。
自分から騎士を辞めたとしても、家族には騎士を辞めたことを責められたのかもしれない。追放という言葉が頭をよぎる。
仕事を失い、家族を失い、家を出て住むところも失い……。
それから……愛する女性を見つけることもできず、戦争から生きて帰っては来たけれど、その身以外何もかも失ってしまったのかも。
代理パパ……。ジャンにパパしゃんと呼ばれることが、もしかしてエディにとって新しい居場所だと感じることができたといのなら。
家庭医教師扱いされるのは、疑似家族の輪の中からはじき出されるように感じるのもわかる。
「じゃあ、お願いしてもいい?文字と計算といった基本的な勉強は私でも教えらえるんだけれど、剣は無理だったから、嬉しい。ありがとうエディ」
お礼を言うと、エディが嬉しそうに笑った。
「僕こそ、ありがとうシャリア。ジャンは今2歳だったよね」
「そう2歳よ」
「そうか。じゃあ、まだちょっと早いな。3歳になってから木剣を握る練習を始めるんだ。遊びの中で体力をつけていくんだ。それから型を覚えて本格的な練習を始めるのは5歳になってからがいいかな。あまり早く覚えさせると体の成長を妨げることもあるから。6歳くらいから対戦形式の訓練を初めて。ああ、木剣を卒業して初めての剣は僕がプレゼントしてもいいかな?」
エディの問いかけに、すぐに返事をすることができなかった。
「やっぱり駄目?」
「あ、うううん、エディが良ければ。私には全然剣の選び方とかもわからないし……」
エディが当たり前に、ずっと先の話をし始めるから、驚いてすぐに反応できなかった。
アイシャさんの宿を1年借りているのは知っている。
でも、もしかしたら途中でいなくなっちゃうかもしれないとどこかで思っていたけれど。
1年が過ぎても、エディはこの街にいるの?
そうだったら嬉しい。
ずっといてほしいとそう考えている自分に驚いた。
だけど、エディにはエディの人生がある。
もし、探している女性が見つかって、お互いの気持ちを確かめ合ったら両想いで……。
ズキズキと心臓が痛む。
何だろう、この不安と不快な気持ち。
エディなら、結婚して家庭を持ったからと言って、急にジャンに対する態度を変えたりはしないと信じているのに。
それでも……なんか嫌だ。
何、この気持ち……。
===クリスサイド=====
「おい、お前何やったんだ?」
いつも足を運ぶ賭博場で声をかけられた。学園のころからの悪友。
「何って、別に何もしてないけど?借金もないぜ?」
バカな奴らは、賭博にのめりこんだ挙句返せないような借金をして悲惨な末路をたどっているのを知っている。
俺は、そんなことはしない。
「いや、借金はうたがってない。やばい女でもひっかけたんじゃないのか?しばらく社交場に出ないで身を隠した方がいいと思うぞ」
は?
ここしばらくはカモを探すようなことはしていなかったはずだ。
アリーを売った金がたんまりあったから、あとくされのない街の女しかひっかけてなかった。
とはいえ、その金もそろそろ底をつきかけているから、カモを探そうと思っていたところで社交場に行くなだと?
「誰が俺を探しているんだ?」
「英雄だよ。英雄フェランディオル・ブライサス」
その名に、ぎくりと身が縮まる。
「さすがに、英雄を相手にお前をかくまうような人間は誰もいないと思うぞ。さっさと会いに行くか、何かまずいことをしたってなら、身を隠した方がいい」
英雄が、なぜ俺を探している?
いや、思い当たるのはあの一件だ。
一夜の花嫁としてアリーを売った。
どういうことだ?
まさか、アリーが抵抗して一夜の花嫁としての役割を果たさなかったのか?
それで、俺に金を返せということか?
金なんてほとんど残っちゃいない。
くそっ、アリーめ。あいつのせいでどうして俺が隠れて過ごすようなことをしなくちゃいけないんだ。
どうせお人好しなあいつは、何か事情があるはずだとおとなしくなすがままになると思ったのに。
家族に俺とのことを反対されていたから、そのあと家族にも打ち明けられずに泣き寝入りするだけだろうと思っていたのに。
予想通り、アリーの伯爵家が俺を探しているという話を耳にすることはなかった。
英雄が今になって俺を探している理由、考えられるのは、征前のジンクス、一夜の花嫁に抵抗されたことを怒っているとか。
アリーが俺に騙されたと訴えたか……。正義感の強い英雄なら俺を探して罰してやろうと考える可能性もある。
いや、もしかしたら、無事に帰ってこられたのは一夜の花嫁のおかげだと、改めてお礼をしたいという話かもしれない。追加でお金をくれるのかも。アリーのことを聞くために俺を探しているのかもしれないな。
英雄とまで評されたんだ。ずいぶんと報奨金をもらっているらしい。
それに、次ぐ爵位もない公爵家次男だったが、領地と侯爵位を与えられるという話も検討されていると聞いた。ずいぶんと豊かな領地だって噂だ。
いくらでもお金はあるだろう。
どっちだ。追加で金をもらえるってなら姿を現さなきゃ損だが……。罰しようとしているというなら、見つかるわけにはいかない。
一夜のことだからあとくされがないように、明かりもつけず、顔も名前も知らないままでいるようにと助言はした。公爵家の次男で女性の興味を引く容姿をしているフェランディオル様は配慮に感謝すると言っていた。
彼から正体がわかるようなことはしないはずだ。
アリーは抵抗したのか?俺に騙されたと伝えたのか?それともおとなしく務めを果たしたのか?
……くそっ。お礼がしたくて探しているというならみすみす大金を手に入れるチャンスを逃してしまう。
確かめなければ。
アリーを探して、確かめなければ。
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シクベ企画から始まり、短編では終わらないなぁー、中編か?と思いつつまだ終わらない、いい加減終わりたいのですが、やっとこさ起承転結の転あたりか。
いや、結は割とあっという間な感じになるから、あともう一息。
お付き合いいただけると嬉しいです。




