基地ではなくきち
「まぁそうさね、パンだが庶民には手が届かないパンじゃがな。貴族が食べるパンじゃな」
アイシャさんの言葉にドキリとする。
あれ?私、自分が伯爵令嬢だったこと言ってないよね?ばれてないよね?
「ほう、それにしても見事なもんじゃな。無駄な傷がなく一刀両断じゃないか」
エディさんの持ってきたツデラ鳥を受け取り、アイシャさんが感嘆する。
「そうでしょう、すごかったの」
ダンジョンの20階層は洞窟の中のような場所じゃなく、ところどころ木が生えている草原になっている。
ツデラ鳥はそのところどころ生えている木を巣にしているのだけれど、人が近づくとすぐに飛び立ってしまうのに。
「こう、ツデラ鳥の巣を見つけたら飛び立たれないぎりぎりまで近づいて、バッ、ジャッ、スパーンって」
「あっはっは、バッジャッスパーンじゃ全然分からんぞ、くっくっく」
アイシャさんが笑い出した。
「だ、だからね、本当にすごかったの!」
アイシャさんがふっと笑った。
「まるで、ジャンの可愛さを主張するときみたいに興奮しておるの。エディはそんなにすごくて、かっこよかったのかい?」
「え?かっこいい……?」
ジャンを膝の上にのせて会話をしているエディに視線が向く。
あの時のエディの姿を思い出す。
「……うん……かっこよかった……」
容姿が整っているという意味じゃなく、かっこよかった。
ツデラ鳥の足を持って、戻ってくる姿を思い出す。ジャンが得意げに拾った石を手に上げて歩いてくる動作に似ているけれど……あの時はかわいいと思わなくて……。
アイシャさんがにやにやっとする。
「ち、違うから、その、べ、別にそういうんじゃなくて……」
にやにやするアイシャさんの背中を押して調理場に向かう。
「早く料理しましょう!もう血抜きは終わってるけれど、何か手伝うことはある?」
アイシャさんが眉根を寄せる。
「……シャリアが手を出すと大惨事になるからのぉ……」
うっ。だって、料理なんてしたことなかったし……。
しゅんっと肩を落とす。
「人には向き不向きってもんがあるんじゃ。料理は私に任せて、一緒に遊んで来い」
ソファに座っているジャンとエディのもとへ足を運ぶ。二人はずっと笑顔だ。
「ジャン、なんの話をしていたの?」
ジャンが自慢気にこたえる。
「んとね、パパしゃん、きちだったの」
「きち?」
基地?
「ああ、騎士だったんだよ。もう辞表を叩きつけて辞めたけれどね」
「そっか」
エディの隣に腰かけた。
エディは貴族なんだから、戦地に向かったとなれば騎士団でということになるのか。いや、貴族なら皆騎士になれるわけじゃないけれど、あれだけの腕があれば騎士どころか……。
「近衛騎士にはならなかったの?」
近衛騎士は、腕があるだけではなく容姿が整っていなければなれないという話だけどエディなら余裕なのでは?
エディが顔をゆがめた。
「あ、なるほど」
ならなかったのでもなれなかったでもなく、なりたくなかったのね……。
「騎士を辞めると、爵位も失ってしまうのに、よかったの?」
貴族でも、嫡男以外は次ぐ家がない。次男移行は、貴族令嬢に婿入りするか、騎士になって騎士爵を賜るかしなければ平民になってしまう。
「シャリアは貴族になりたいと思う?」
「え?」
私にとって、貴族になる方法は、家に戻ることが一番早い。
そして、親の探してきた相手と結婚すれば貴族に戻れるだろう。
だけど、そのためにジャンと離れ離れになるなんて絶対に嫌だ。一緒に暮らせたとしても、父親が誰かもわからない連れ子という立場じゃ苦労するのが目に見えてる。
「絶対に、貴族にはなりたくない」
私の怒りを含んだ言葉に、エディが息をのんだ。




