パンとアップルパイ
「はい、依頼達成。今日は早かったね。それにずいぶん少ない」
ギルドに戻ってきたのはまだ昼の鐘がなるかならないかのころだ。
ミミリアさんが討伐証明と素材を目視して依頼票達成のチェックをする。
「あんまり目立つなって言われたから……これくらいなら目立たないでしょう?」
「まぁそうね……あ、素材採取したもので銅色、鈍色の依頼に出てたものがあるから、依頼達成扱いにするわね」
ミミリアが依頼票を6枚ほど引っぺがして持ってきた。
「いや、別に普通に買取でいいけど……鈍色や銅色の冒険者に依頼は回してくれれば……」
と思ったら、ミミリアににらまれた。
「銅級パーティーでしょう?メンバーには鈍色級もいる、意味は分かる?」
意味……。
「ああ、普通は銀級の依頼ばかりを選んで受けるようなことはしないということですか。銅色や鈍色の依頼も受けているとした方が目立たないってことですね」
エディの言葉に、ミミリアさんが大きく頷く。
「そっか!今度から気を付けるよ。ありがとうミミリア」
「はぁー。なんで、エディさんのほうが先に気が付くのかな……。まぁそこがシャリアだもんねぇ……。で、昨日の分と今日の分、1割パーティー口座で、残りはどうする?」
「半々で、私とエディに。私は振込で、エディは?」
「金貨1枚手元に、あとは振込で」
うん?金貨1枚?そんなに稼げたかな?
この私としたことが、昨日今日とエディとのパーティー活動をうまくこなそうと必死になりすぎて金勘定がおろそかになっていたわ。……私の唯一の特技である計算が早いを発揮しなくちゃ本当に役立たずになっちゃう……。
明日から気を引き締めよう。
カウンターを後にする私たちの後ろで、ミミリアが依頼書をぴらぴら振りながらつぶやいた。
「依頼数を増やしてさっさと昇級して金色になってもらわないと……」
大きなため息をついた。
「ギルド長も能力で目立つなって話しかしてなかったけど、あの二人は見た目だけでも目立ちすぎでしょう……。護衛に見た目のましな冒険者をと指名する人もいるんだから。搾取されないように昇級してもらわないと」
「ただいまぁー!」
家に帰ると、私の声にジャンが顔を上げて一目散にドアまで走ってくる。
「帰ってきたよ、ジャン!」
両手を広げてしゃがみ、ジャンを抱っこする体制で待ち受ける。
ああよかった。朝出かけるときは激しく泣いていたけれど、もうご機嫌が直ってたのね。
鼻水垂らして泣いている顔もめちゃくちゃかわいいけれど、やっぱり笑顔を見るのが一番好き。
両手を広げて待ち構えている私の横を無情にもジャンは素通りした。
「パパしゃんっ!」
エディの足にぎゅっとしがみつく。
「ジャン、元気だったかい?」
「うん、ジャン元気よー」
エディが弾んだ声でジャンを片手で抱き上げた。
思わず恨めし気な目で見てしまうのは仕方がない。
「あっはっは」
アイシャさんが私の背中をポンポンとたたいた。
「仕方がないさ。いわばエディはアップルパイみたいなもんさ」
「アップルパイ?」
「たまに食べるから特別おいしいのさ。だけど、毎日食べ続けるようになりゃやっぱりいつものパンが食べたいってなるもんさ」
「……ってことは、私は、パン?」
エディがアップルパイで、私がパン……。
ジャンと楽し気に会話をするエディを見る。
整った顔をして、長身で引き締まっていて。誰が見ても美青年だ。さらりと揺れる金の髪が額にかかるのは色気さえある。
……貴族社会では女性がこぞってうっとりと眺めるような顔。とっておきのアップルパイっていうのもわかる。
私はパン、そうかもしれない。
うんうんと、大きく頷く。




