そうなると想像できなかった
「え……?」
その顔を見て、とんでもないことをしでかしたことに気が付く。
寝ぐせを直すなんて、使用人か家族しかするようなことじゃない。子供の髪を整えるか、それこそ妻が夫の身支度を整える時くらいしか……。
頭を撫でるようにエディの髪に触れた手を慌ててひっこめる。
「ごめんなさい、つい、いつもの癖で!」
エディはぷはっと吹きだした。
「ジャンは、いつも寝ぐせをつけて起きてくるの?」
ほっと息を吐きだす。
「そうね。寝ぐせだけならいいけれど、時々髪の毛が絡んじゃっていることがあって……」
エディがニコニコ笑っている。
「ジャンの寝ぐせ、かわいいでしょうね」
エディの言葉に、ジャンとエディがそっくりな髪の色で二人ともそっくりに寝ぐせをつけている姿を想像してしまった。
「やばいくらいにかわいい……!」
「そうしょうね」
エディもかわいいというのは黙っておこう。
「よかった、元気になって。さっきはひどい顏をしていたので……何があったんですか?」
ひどい顏かぁ。朝から、ジャンのイヤイヤが激しく、しかもその内容が……どうにもならない内容で……。
「あ、依頼を受ける前に朝食を取りたいんで、食べながら話をしてもいいですか?」
エディがちらりとギルドの食堂に視線を向けた。
「ええ、もちろん。というか、私も今日は朝食を食べてなくて、一緒に食べましょう」
冒険者の食堂の朝食のメニューは簡素なものだ。
硬いパンと干し肉と具のないスープ。携帯食として食べずに持ち帰れるようにと出されているので仕方がない。それから追加でハーブティーあらため薬草茶。
「いつもここで朝食を?」
エディに尋ねる。
「んー、まだこの街をよく知らないのと、探すのも面倒なので。シャリアは、今日はどうして朝食を食べずに……もしかして、僕のために?」
ハッとエディがちぎったパンを口に運ぶ手を止める。
「いいえ、実はジャンのイヤイヤがいつも以上にひどくて」
エディが苦笑した。
「ああ、ジャンは朝から元気いっぱいなんですね。で、今日は何がそんなに嫌だったんですか?」
答えにくい話題に、黙ってスープを口に含んだ。
そのまま話題を変えるにはどうすればいいかなと時間稼ぎをしていると、エディがもしかしてと言葉を続ける。
「もしかして、ママ行かないでとかですか?もしそうなら、ジャンが落ち着いてから……その、僕はここでお茶を飲んで待ってますし、遅れてきても」
「違うのっ!そうじゃなくて!」
エディに迷惑をかけたくないから、何か誤魔化そうと頭を働かせるけれど、上手な言い訳が出てこない。
「だったら、なんだったんですか?疲れた顔をしてました。よほどのことだったのでは?」
カタリと小さな音を立ててエディが持っていたスプーンをテーブルに置いた。
食べるのを中断してまっすぐに私の顔を見ている。
興味本位で聞いているわけではない。私のことを心配しているんだ。
「あー、その……」
観念して白状する。
「起きたら、すぐに、パパしゃんは?パパしゃんはどこ?から始まり、いつパパしゃん来るの?今日は来る?パパしゃんに会いたいよと、その……」
エディが額を抑え、頭を下げた。
「すいません、僕のせい、ですね……」
ああ。やっぱりエディは優しいから気に病むと思ったんだ。だから、言いたくなかったんだけど……。
「そうだ、ギルドで待ち合わせではなく、毎日家に迎えに行きましょうか?」
は?
「あ、無理してるわけじゃないですよ?僕も毎日ジャンに会えるなら嬉しいですし」
ジャンに会いたいと言ってくれるのは嬉しい。でも……。
「いや、あの……それこそ、毎日パパしゃん行っちゃやだになるような気が……」
「……あー……」
エディが困った顔をする。




