問題発生の朝
ちなみに、私たちが住んでいる家はアイシャさんの持ち家。
1階にキッチンとダイニングとリビング。それから庶民の住む家には珍しいトイレと風呂。……どうやら風呂が家にあるのは貴族と金持ちだけらしい。トイレも壺に用を足してたまれば捨てに行くか、共同トイレまで足を運ぶかが普通らしい。魔法的な処理が施された処理が不要のトイレも貴族や金持ちの家にしかないらしい。
2階には小さめの寝室が4部屋。それぞれベッドが1つずつと小さな物入がある。ここもそのうち宿にするつもりだったのかな?
とまあ、お屋敷のような大きな家ではないけれど、風呂とトイレがついているし、キッチンの調理器具は火おこしも火の調整も簡単な、これまた魔法的な処理が施されたものだし、暖炉もなく部屋を暖められる道具これまた……という具合に、設備は貴族並み。
アイシャさんは本当にすごく稼いでいた冒険者なんだろう。……誰も教えてくれないけど、ミスリル級だったんじゃないかな?
で、今も時々頼まれて依頼をこなすことがある。半年に1、2回ほど。昔の仲間に頼まれちゃいやと言えないねぇなんてぶつぶつ言いながらも楽しそうなので、昔の仲間とのつながりが続いていることが嬉しいのかもしれない。
……でも、アイシャさんだってもういい年だ。
もし、無茶なことを頼まれたときに「弟子にやらせるよ」と任せてもらえるようになれば恩返しになるのでは?
いつまで老体に働かせるつもりさね!って本気じゃないけれど、いつかは本気でそう言う時が来るかもしれない。
よぉーし、頑張るぞ!
……と、意気込んで眠ったけれど。
翌朝、起きたらそんな決意がかすむほどの問題が発生していた。
「師匠、こうなるの分かってましたね?」
昨日言っていた大変になるとはこのことだったのね……」
アイシャさんは駄々をこねるジャンを抱っこし、私に手紙を差し出した。
「今日はギルドでエディと朝ごはん食べな。で、この手紙はエディに渡して、返事は帰った時でいいよ」
「すいません、お願いします」
「ジャン、ママはお仕事に行ってくるからね。いい子で待っていてね!」
アイシャさんはぎゃーぎゃー泣き叫ぶジャンの手をとり、ばいばいと振ってみせた。
困ったなぁ。……どうしたらいいんだろう。
しょんぼりしてギルドに向かうと、ギルドの入り口でエディとかち合った。
「おはようシャリア。どうしたの?体調が悪いなら今日は止めておく?」
「え?全然平気だけど……その……ちょっと困ったことが……」
エディは首を傾げた。朝からかわいいな。
……今日はちょっと頭の上の髪が跳ねてぴこんってなっていて、何倍もかわいくなっている。
貴族世界じゃ身だしなみが整っていないと恥とされることだ。髪を整えてくださる方もいらっしゃらないの?と侮蔑の目を向けられることもある。……冒険者なんて半分以上は髪はもしゃもしゃ。その中ではしっかり整えられている方だよ。エディさん。
でも……貴族的な立ち振る舞いに、整った顔をしていると、そのぴよんと飛び出した髪が妙に目立つ。
「寝ぐせ」
つい、指摘してしまった。
「え?どこ?」
エディが明後日のほうに手を伸ばすので、思わずはねている髪を整えてあげた。
「あ……」
エディの顏が真っ赤に染まる。




