目標
「さぁ、アップルパイの時間だ!」
アイシャさんが立ち上がり、棚からアップルパイを取り出した。
ホールだ!
6つに切り分け、1つをジャンの皿に。食べやすいようにさらに細かく切り分け……もはや、パイ生地とリンゴを混ぜた別の何かにも見えなくない状態になってしまったけれど、仕方がない。
自分で食べたがるのだから……。
フォークを手渡し、隣にすわる。
「いただきます」
「いただきまちゅ」
ジャンがマネして手を合わせる。うーん、かわいい、かわいすぎる。
初めてのアップルパイ。
ジャンがぎこちない手つきながらも、一口アップルパイを口に入れた。
驚いたように大きく見開かれた目。一瞬動きを止めたあと、目を輝かせながらもう一口。
それから、ほわぁと顔中でおいしいを表現する満面の笑み。
「ジャン、アップーパイちゅき、だいちゅき」
ニコニコと幸せそうな顔を見ていると、私まで幸せな気分になる。
「おいちいね」
一口食べてはにっこにこ。
「おいちいね」
一口食べては報告している。
ハッと、気が付いてしまった。
ジャンは、初めてアップルパイを食べたんだ。
いいや、こういうお菓子類は初めてだ。
今までに食べたことのある甘い物は果物とせいぜいクッキーくらいだ。
……私が伯爵家で小さいころから当たり前に食べていたケーキもタルトもプリンもチョコレートも……何一つジャンは口にしていない。
アップルパイ……お祝いだとアイシャさんが用意してくれたこれが初めてなんだ。
他にももっとおいしいものいっぱいあるんだよ……って、そんなことすら口にできない。
学園へ通わせるためのお金と将来私に何かあった時のために溜めておくお金と……これから冒険者としてやっていくための武器を買うお金と……。
それだけでいいわけじゃない。
私が経験してきたことは、ジャンにも経験させてあげたい。
いろいろな物を食べて、それから、柔らかいベッドに沈む混むときの幸せも教えてあげたい。
ピカピカに光る革靴に足を入れた時の誇らしさも、美しい絵画を見て心を躍らせる経験も……。
もちろん、庶民が簡単にできることは少ない。
けれど……。お金を稼げば叶えられることはたくさんある。
父親がいないから叶えられなかったとか、私が家に帰らないから叶えられなかったとか……。
そんな風に思うような子にはならないと思うけれど……。
「幸い、稼ぐ手段がある……。冒険者として……」
アイシャさんが弟子にしてくれたんだ。
ギルド長がギルド職員として知識を身につけさせてくれたんだ。
そして、エディがパーティーを組んでくれた。
目指してみようか……。
無理はしないというのは大前提だけれど。いけるところまで……。
銀級(C)まで上がりその先に上れない者は多い。
金級(B)まで行けば一流。
プラチナ級(A)までいけたら、一目置かれる存在だ。
アイシャさんの弟子を名乗るなら。
エディさんとならもしかすれば目指せるかも。
金級になればギルド長もパーティーを組んでくれるというし……。
プラチナ級を目指してみようか……。




