アップルパイ
「たっだいまぁー!」
ドアを開くと、たたたたたっと、愛しのジャンが駆け寄ってくる。
うわぁーーーん、かわいい、かわいい、かわいい!
「マッマっ」
「はーいジャン!ママだよー、ママが帰ってきたよー!」
しゃがみこんで両手を広げると、、ジャンが胸の中に飛び込んできた。
ほっぺたにジャンの柔らかな髪が当たる。ふわふわ。
そのまま抱き上げて部屋の奥へと進む。
「ただいま、師匠。箒ありがとうございました!あまり出番はなかったです」
あ、いや、仕込み杖としての出番は少なかったけれど、新人指導でエディさんを箒で小突いたり役立てたかな?
「そうかい、そんなに奥へと進むことはなかったってことかい?」
「基準がよくわからないけれど、エディさんは学園に通っていて、その時何度かダンジョンに潜ったことがあったらしく初めの方は戸惑うことなくサクサク進んだし、そのあともものすごい早業でバサバサ魔物を倒して進んでいったし、魔石目当てで深追いして時間を無駄にすることもなかったし、結構進んだんじゃないかな」
「魔石目当てでってやつはお前の反省点だったね」
アイシャさんがジト目で私を見た。
……しまった。言わなきゃよかった。
そうです。私、魔石が……お金が欲しくて執拗に追いかけて時間を取ったりする失敗が……ぐぬぅ。
「まぁ、そんなシャリアも今じゃ新人指導するまでになったんだねぇ」
アイシャさんがうんうんと頷いている。
それからにやりとわらった。
「で、銅急に昇級したんだろう?今日はお祝いにアップルパイを買ってある」
「え?アップルパイ?」
「アップーパイ、おいちい?おいちい?」
そうか、ジャンはまだ一度も食べたことがないのか。
「あはは、ジャンはずっとそれだよ。早く食べたくてうずうずしてるんだよ」
「そっか、ジャン。アップルパイはとっても美味しいのよ!ママが戻ってくるまで食べずに待っててくれたんだね、ありがとう」
柔らかな髪を撫でる。
うん、やっぱりエディさんの髪とは違う。ジャンの方がずっと柔らかい。
単に幼児だから?って、なんで今エディさんのことを思い出したんだろう。
ジャンを椅子に座らせるとアイシャさんが叫んだ。
「なんだいっ!昇級はお預けだったのかい?」
え?
「鈍色の冒険者カードぶら下げて」
え?え?
首から冒険者カードをはずすとそこに書かれた名前を見る。
「あ、間違えて持ってきちゃった……。ずっと鈍色だったから……うっかり……いつもの癖で……」
アイシャさんが私の手から冒険者カードを取り上げた。
「誰のと間違えたんだい?……って、フェンリルの牙……こんなもんぶら下げた鈍色級なんてお前の他にいるとは思えんがの」
私以外はぶら下げない?すぐに売ってお金にするってことかなぁ?私はジャンのためにも頑張ってお金を貯めないといけない。
「……エディ……?」
アイシャさんが冒険者カードに書かれている名前を見た。
「もしかして、今日指導した新人かい?」
「そうなの。エディの冒険者カードと間違えたのよ」
パーティー登録するときにカードを一緒に出したから。
「エディも困っているだろう、すぐに届けてやりな」
ああ、確かに、冒険者カードって身分証明書になるから、街の出入りするときなんかに必要になるよね。
「んー、大丈夫じゃないかな?今日はもう使わないだろうし。明日会った時に交換するよ」
アイシャさんが顔を手で覆った。
「おまえは、ギルド職員として働いていたにも関わらず、何をのんきな……他人の冒険者カードを持ち歩くなんて、とんでもないことだってわかってないのかい?」
知ってるよ。もし、魔物に殺されたら、カードしか身元を証明するものがないとすると、別の誰かが死んだことになってしまって大騒動になるとか、あとはなんだ、銅級のくせに金級のふりをして悪さを働くとか、いろいろ問題が起こるから肌身離さず持って誰かにとられないようにしないといけないんだよね。
紛失したら再発行に結構な額がかかるのはそのためだ。




