かわいいしぐさしてる場合じゃない!
「もぅ、エディさんかわいいしぐさをしている場合じゃないですっ!顔を手で隠すなんて魔物がいつ出てくるか分からないんですから、ダンジョンを出てからにしてくださいっ」
ふいっとエディさんが顔を上げて首を傾げる。
「か、かわいいしぐさ?なんですそれ?」
「ほらー、その首の傾げ方もかわいいですって!」
エディさんがちょっと恥ずかしそうな表情をする。。
「いや、首を傾げただけだろ?初めて言われたよ?」
「ん?確かに、私も、首を傾げる姿がかわいいなんて言うの、二人目だわ」
あれ?本当だ。首をかしげて可愛いなんてふつうは思わないんだ……。
「二人目?えーっと、一人目は誰か尋ねても?」
「ジャンよ」
きっぱりと言う。
あ、だめだ。思い出すと止まらない。
「もちろん、首をかしげるだけじゃなくて、何をしていても可愛いの。寝ているときに鼻がすぴすぴ鳴るのも、食べかすをほっぺたにつけているのも、服がうまく脱げなくてじたばたとしているのも、もう何もかもがかわいくて!」
はっ!しまった。
息子の可愛いところを語りだしたら止まらないけど、ここはダンジョンの中。
気を抜いていいばよじゃない!
エディさんが微妙な表情で私を見ている。
「もしかして、僕はシャリアさんの息子と同じ扱い……なんですかね?そんなに子供っぽいですか?」
うん?
「そりゃ冒険者登録したてのひよっこではありますが……」
と、言いながら襲ってきたツインヘッドウルフをすぱぱーんと切り伏せていく。
太刀筋に迷いわなく、ジャンがアイシャさんの真似をして棒っきれを振り回している姿とは全然違う。
「えーっと、子供っぽくはないですし、ひよっこと言えば、まぁ私も似たようなものなんですけど……」
私よりも年下の少年少女が冒険者登録に来ても、確かに初々しいなぁと思うことはあるし、可愛いと感じることもあるけれど……。さすがに首を傾げるしぐさがかわいいなんて思うようなことはなかった。
変だな。どうしてそう感じるんだろう?
アイアンゴーレムが現れ、エディさんが素早い動きで背中に回ってあっという間に魔石をたたき割り倒してしまった。
……うん。成長も早いね。
魔石が……。
気が付けば28階層まで来ていた。
「だんだん、分かってきました。倒せないものは倒そうとしないで、回避して進めばいいんですね」
アイアンゴーレムのように魔石を砕くことで倒せる魔物がここに来るまでにほかにも何種類かいた。
「そうですね、倒さないと危険な場合は倒すことを優先しますが、魔石も取れないのでは倒すだけの体力と時間がもったいないですから、そのまま回避して進んだ方が効率的です」
魔石も勿体ないし……。魔石が、勿体ないし……。
めったに出会わないレアな魔物……後から来た冒険者に残してあげて……。
何度泣きそうになったことか。
ううう、ギルド長、新人指導、結構精神的にきついです。
私が代わりに倒して魔石を取りたくなる場面が何度もありました。
師匠は私をただ見守り口を出すだけで……あんな風に自分の我を捨てて指導に徹するのってめちゃくちゃ辛いです。
人間出来てないと……。
「まずい、フェンリルか……」
28階層の最奥の部屋へ入るなりエディさんが焦った声を出した。




