ギルド長ガルド
「ここは?」
一つの建物の前でアイシャさんが立ち止まった。見上げると剣とジョッキが描かれた看板が掲げられている。
ジョッキっていうことは酒場?給仕の仕事を紹介してくれるのだろうか?
アイシャさんの後ろについて建物に入る。
むわっとした血と汗と酒の匂いが混じった空気が鼻につく。
ごつい男の人がニヤニヤしてこちらを見た。
「ひゅぅー、綺麗な嬢ちゃんが冒険者ギルドに何の用だ?」
「護衛の依頼でも出しにきたのか?俺なんてどうだ?」
「俺なら護衛だけでなく、夜の相手もしてやるぞ~」
何人かの男に囲まれる。
……冒険者ギルド?
話に聞いたことがある、ここが……。
「どきな、お前たちに用はないよ」
と、アイシャさんが箒でしっしと男たちを追い払った。
「なんだ、ばばぁこそ邪魔なんだよ!俺は嬢ちゃんに話かけてるんだ!」
「箒なんか振り回して嬢ちゃんの護衛のつもりか?かかか、無理すんなおいぼれが!」
アイシャさんがバカにしたように笑う大きな体の薄汚れた皮の鎧を身に着けた男を見上げた。
「ひよっこが、ピーピーうるさいんだよ」
アイシャさんの言葉にカッとなった男の人……冒険者が声を荒げた。
「なんだと、ばばぁこそ、痛い目にあいたいのか!」
アイシャさんが箒で男の足をチョイッと払った。
ぐらりと体がかしぐ。
「何すんだ、てめぇ!」
「何って、箒ですることなんて一つだろう、ゴミ掃除だよ」
「誰がゴミだっ!」
野次馬たちは、いいぞやれやれと煽る者もいれば、大丈夫か止めないとと心配する人もいる。
どうしよう、アイシャさんを止めるべき?誰かに助けを求めるべき?と、焦っているとよくとおる声が響いた。
「何の騒ぎだ!」
奥から、背が高くてがっしりした20代半ばになるかならないかの男性が現れた。
黒髪で、鋭い目つき。頬にはうっすらと古傷が残っている。整った顔をしているけれど、目つきと傷でちょっと怖い印象だ。
「ギルド長!」
野次馬たちが一斉におとなしくなり、道を開ける。
「ガルド、躾がなってないようだね!」
アイシャさんがギルド長と呼ばれた男の人の頭を箒の柄でこつんと叩いた。
えええ、いいの?偉い人じゃないの?
「ばぁちゃん、何しに来たんだよっ!」
あわわわ、おばあさん呼びしたらアイシャさんがまた怒るよ!
「まさか、ギルド長のばあさんなのか?」
「元プラチナ級の迅疾のアイシャ様?」
「うわー、そりゃひよっこ言われるよな、大丈夫かあいつ真っ青だぞ」
「やっちまったなー。っていうか、アイシャ様と一緒に来たあの嬢ちゃん何者だ?」
え?ギルド長は、アイシャさんのお孫さん?
身長2m近くありそうな大柄のギルド長と、女性の平均身長ほどの私よりも小柄なアイシャさんが血縁者?
「冒険者登録しに来たんだよ」
「は?ばぁちゃん、宿屋つぶれたのか?どうせ客を叩きのめしたとか噂が立って誰も借りなく」
ごすっと、先ほどとは比にならないほどの力で、アイシャさんがガルドのお腹に箒を叩きこんだ。
うわー、あれ、身体強化魔法3重かけしても痛そう……。と、思ったけどガルドさんは平気そうだ。
「宿屋経営は順調だよっ!登録するのはこの娘っ子の方だ」
アイシャさんが私の肩を叩いた。
「「え?」」
私とガルドさん、それから周りの人の声が重なった。
「こんな細くて折れそうな嬢ちゃんが冒険者登録?」
「うるさい、さっさとしな。ほれ、ここに名前書きな」
差し出された紙。には、冒険者登録用紙と書かれている。
「あの、冒険者って?」
なんで、私が?
かっこいいおばーちゃん好きぃ




