冒険者の級
「安心してください。ギルドだと、ネズミは相手にされません。猫はライオンを手に入れようとしますから」
「ふっ。うまいことを言うね。ここでは顔がいいよりも腕っぷしがいい方がモテるってことかな?」
自分で顔がいい自覚はあるんだ。いや、まぁ、それで苦労してれば自覚せざるを得ないということかな。
「強い男がモテますね。見た目で言えば、頑丈そうなタイプですかね。だから、貴族社会ではつまみ出されるようなギルド長のような人間もモテモテですよ。口が悪くて足が臭い男でも」
がしっと頭をわしづかみにされる。
「ほほー、残業はしないくせに、俺の悪口言うためには残るのか?」
ぎりぎりと閉められる頭。
「いたた、ギルド長っ!違いますよ、冒険者登録に来たから、残業して受付してるんですっ」
私の言葉に、エディが申し訳なさそうな顔をした。
「すまない、僕のせいで残業させてしまったんだ」
「いえ、問題ないですよ。ちゃんと残業代貰うんで。では、登録手続きしますね。説明は必要ですか?」
と、この説明……私はアイシャさんにつられれて登録したから聞いてなかったんだよね。
アイシャさんから聞いてるだろうと思われていたようで。
ギルドで働くようになって、初めて知った。
「はい、何も知らないのでお願いします」
「登録した人間は鈍色級となります。依頼をこなし、実力をつけていくことで、ランクが上がっていきます」
鈍色、銅色、銀色、金色、プラチナ、ミスリルと。
銀色まで行ければ冒険者として食うに困らず、家族を養い、貯金をして引退後も生活できると言われている。
金色で一流。プラチナは国内でも数えるほどしかいない、超一流。
そして、ミスリル級は、今は国内に2名のみ。別の国ではS級と呼ばれることもある、トップオブ冒険者だ。
「そうなんだ。えーっと、腕にはちょっと自信があるんだけど、飛び級とかできないのかな?」
ヒュンッと風きり音がしたかと思うと、ギルド長の短剣の先がエディさんの目の前に突き出された。
エディさんが剣の鍔でそれ以上前に出るのを制止している。
……ということがたぶん私のすぐ目の前で行われた。
まったく見えなかった。
ほら、私、身体強化はできるけど、もともとの身体能力なんて人並……いや、冒険者以下の令嬢だからさ。
目を強化すれば見えるけど、受付やってるときに強化なんかしているわけもなく。
見えなかった。
いや、見えるはずないんだよねぇ。
ギルド長のガルドさんって、若いのにギルド長なのは、何も冒険者に一目置かれるアイシャさんの孫だからと言うわけでなく、国内に2名のみしかいないミスリル級の一人なんだよ。
そのギルド長の動きが鈍色……E級冒険者の私ごときに見えるわけがない。
ギルド長がカウンターから乗り出すようにエディさんの顏に顔を近づけた。
短剣はそのままエディののど元に向けたままだ。
「ちょっとはできるようだな。兵、いや騎士でもやってたのか?それが冒険者になろうってのは、訳ありだろう」
ああ、なるほど。貴族に見える上に腕に自信があるなら確かに騎士の可能性は高い。あとは兵でも上の方の立場。隊長だとか団長、もしくは将軍に近い補佐官とか?
エディさんはギルド長ににらまれているというのに一歩も引かない。
冒険者の大半は、あの圧に負けて目をそらしたり震え上がったりするというのに。すごい胆力。
あれ?でも、単にギルド長がS級冒険者って知らないだけ?ギルド長だって登録に来ただけの人に本気で圧力かけるわけないかな?




