英雄フェランディオル・ブライサス
しまった!そりゃそうだよ。
「いえ、えーっと、どうしてエディさんは冒険者に?と思っただけで、その、商家の執事や貴族の護衛など、いくらでも仕事が見つかりそうだなと……」
素直に思っていたことの一端を口にすると、エディが頷いた。
「苦手なんですよ。愛想笑いや心のない会話」
分かる。クリスといると自然な自分でいられるとか思ったけど、クリスは逆に全部嘘だったんだよね。
「冒険者はいいですよ、と言いたいところですけど、思っていることがすぐに顔に出たり口に出たりすることで、すぐ手まで出るのは難点ですね」
ぷっとエディが笑った。
「あはは、なるほど。……君は手を出されたりしないの?」
「君?ああ、まだ自己紹介もしていなくて失礼しました。ギルド準職員のシャリアです。手出しですか?まだ殴られたことはないですね」
エディが真顔になった。
「いや、僕が言ったのはそっちのほうじゃない手だよ」
「え?どっちの手?」
「綺麗なオレンジブロンドの髪に、大きなブルーの瞳。モテるでしょう?」
へ?
「い、いえ、全然ですっ。っていうか、私には大切な人がいるんで、それをみんなも知ってるんで!」
ジャンがいることはこのギルドを利用する冒険者のほとんどは知ってる。だって、大きなお腹で受付してたからね!
……とはいえ、お腹が大きくなる前でも声がかかったことなんてないんだけど。
「その、それを知らない人からも声がかかったこともないので、私は全然かわいくはないですよ!」
伯爵令嬢の時はダンスに誘われることはあったからモテてたと勘違いしそうになったけど、あれは単に伯爵令嬢だから声をかけてきただけなんだろうなと、今では思う。
「いや、そんなことないんじゃないか?」
「えっと、エディさんこそ、モテるでしょう?」
不快そうに顔をゆがめる。あら、もしかして、モテすぎて苦労してきたタイプなのかもしれない……。
時々いる。公爵令息もそうだったはずだ。見た目も麗しいけれど、地位まである。婚約者がいないためいろんな女性に狙われていた。
……あとは、北の戦線の英雄さんもモテモテだろうな。
1年ほど前隣国との戦争は我が国の勝利で終わった。
勝利を導いた公爵家の次男フェランディオル・ブライサス様は英雄と賞され、国中がフェランディオル様フィーバーに沸いた。
私はと言えばそのフィーバーの中、もしかしたら戦争から生きて戻ってきた一夜の花嫁のあの人が私を探すかもしれないと、師匠の宿を訪ねてくる人がいないか何度も確認したんだよね。
結果、兵たちが引き挙げてきた後3か月たっても、半年がたっても誰もあの宿を人を探して訪れる人はいなかった。
単にあのことは忘れてしまったのか。本当に一夜の思い出として興味がないのか。
それとも、2年も前のことだから、新しい人生を歩んでいるはずの女性に迷惑をかけたくなかったか。
――戻ってこなかったか。
チクリと胸が痛む。生きていてほしい、そう思った一夜。ただ、それだけを願った一夜だった。
「モテるというよりは、餌扱いだね、あれは。猫に追いかけられるネズミの気持ちだったよ」
想像して思わず笑ってしまった。




