第4話:選抜戦、そしてふたりの涙
<冒頭モノローグ:相馬 悠真>
「テニスは、ひとりじゃない。
ラリーの先にいる相手と、心をつなぐものだと……
ひかりと打ち合って、初めて知ったんだ」
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【場面:体育館の掲示板前】
翌週、校内のテニス部で「県選抜チームメンバー決定戦」が告知される。
悠真は掲示板の前で張り出された紙を見つめている。
その背後から、蓮見が声をかける。
「よう、相馬先輩。選抜戦、俺も出ますから」
「……わかってる」
「絶対勝ちますよ。だって、負けたらアイツを諦める理由がないですから」
その言葉に、悠真の目が鋭くなる。
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【場面:中庭/昼休み】
ひかりは静かな中庭のベンチで一人、本を読んでいる。
そこへ、はるかがやってくる。
「……戻ってくれて、ありがとう。部活」
「うん。……皆、優しかった。びっくりした」
「悠真が、あんなに真っ直ぐに言ってくれるなんてね」
はるかは微笑みながらも、どこか切なげ。
「……ねえ、ひかりさん。ひとつだけお願い。
選抜戦が終わるまで……悠真には、本当の気持ちは言わないで」
「えっ……?」
「もし君が、悠真のテニスに影響を与えるなら、私……許せないから」
ひかりは何も言えず、ただうつむく。
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【場面:テニスコート/選抜戦当日】
学校対抗選抜戦――
校内の上位4名でダブルスを組み、強豪校とぶつかる形式。
悠真のペアは、まさかの蓮見蒼真。
「まさか、お前と組むことになるとはな」
「逆に燃えますね。俺、絶対あんたを超えてやるつもりで来たんで」
ぎくしゃくしたペアながらも、試合は開始。
だが、連携が噛み合わず、ミスが続く。
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【場面:ベンチ/ハーフタイム】
ひかりは、フェンスの外から見つめている。
歯を食いしばる悠真。
苛立つ蓮見。
ふと、悠真がベンチから立ち上がり、フェンス越しにひかりの方を見た。
「ひかり――お前が俺に教えてくれたよな。
“つなぐ”ってこと。……だったら、もう一度、信じて打つだけだ」
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【場面:後半戦】
悠真はラケットを握り直し、蓮見に声をかける。
「次、センターを頼む。お前のサーブを信じる」
蓮見は驚いた顔で、それでも頷く。
「……オーダー通りにいってやりますよ、エース」
そこから、ふたりは息を合わせはじめる。
スピン、スマッシュ、フォアクロス――
完璧なラリーが決まり、逆転勝利!
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【場面:試合後】
観客席で涙ぐむひかり。
はるかが隣に座り、ハンカチを差し出す。
「……やっぱり、嘘つけないんだね、あなたも」
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【場面:夕方/校舎裏】
選抜戦のあと、悠真とひかりがふたりきりで話している。
「……今日、勝てたのは、お前が俺に教えてくれたからだ」
「そんな……私、何もしてないよ」
「してくれたよ。“信じる”ことを教えてくれた。
それだけで、十分だ」
その言葉に、ひかりの目から涙がこぼれる。
「ごめん……本当は、あなたのこと、ずっと……」
その瞬間、はるかの姿が遠くからふたりを見つめていた。
<ラストナレーション:ひかり>
「この想いを伝える勇気は、まだない。
でも――この空気の中で、あなたのラリーを支えたいと思った」