第3話「バレた秘密と本当の気持ち」
<冒頭モノローグ:月城はるか>
「子どもの頃から、悠真はずっと前を走っていた。
私はいつも、その背中を追いかけていたんだ。
でも、最近は……知らない誰かに、その場所を奪われてる気がする」
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昼休み、教室。
はるかは自分の席から、テニス部の仲間たちと話して笑う悠真の姿を見つめていた。
はるか(心の声)
「今までだったら、隣にいるのは私だったのに……」
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その日の放課後。
テニス部の練習後、部室にひかりのスマホが置き忘れられていた。
はるかが何気なく手に取ると、画面に通知が表示されていた。
【TV出演決定:朝比奈ひかり、週末生放送に出演!】
はるかの表情が強張る。
はるか(心の声)
「やっぱり……朝比奈ひかりって、あの“アイドル”じゃん……!」
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翌日――。
学校内で「朝比奈ひかり=本物のアイドル」という噂が広まり始めていた。
廊下、教室、屋上……どこへ行っても視線を感じるひかり。
クラスメイト1:「なあ、あの子…もしかしてほんとに朝比奈ひかりじゃね?」
クラスメイト2:「え、マジ? SNSで比較されてたやつ、めっちゃ似てたよ」
ひかりは笑顔を作りながら、何も聞こえないふりをする。
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放課後、体育館裏。
ひかりが一人、背中を丸めて座っていた。
そこへ現れる悠真。
「……大丈夫か?」
ひかりは顔を上げる。目が赤い。
「……ねえ、やっぱり私、ここにいたらダメなのかな」
「なんでそんなこと言うんだよ」
「だって、みんな見てくる。怖い。私は……ただ、普通でいたかっただけなのに」
悠真はそっとひかりの手を握る。
「……逃げんなよ。お前が頑張ってるの、俺は知ってる」
「悠真くん……」
「それに、俺に“普通じゃない”お前を見せてくれたのは、お前だけだから」
ひかりの瞳が潤み、でも今度は泣かなかった。
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その様子を、少し離れた場所からはるかが見ていた。
彼女の手の中には、ひかりの出演が載った芸能ニュースのプリントアウト。
はるか(心の声)
「私は……負けたくない」
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数日後――。
テニス部の部室に、突然はるかが姿を現す。
「今日から、またマネージャーに戻ります」
顧問も部員も驚く中、悠真も目を見開く。
「はるか……」
「……部活を辞めた理由、もう一度思い出したかっただけ」
ナレーション(悠真)
「あの日から、俺たちの関係は少しずつ変わり始めた。
三人のラリーは、もう戻れない場所に向かっている――」