First episode『ロンドン到着、はじめての異文化』
空港の自動ドアが開いた瞬間、ロンドンの冷たい風が家族を包み込んだ。
6月だというのに、日本より肌寒い。
悠真は陽菜の肩にそっと上着をかけ、はるかはキャリーケースを引きながら周囲を見渡す。
建物の灰色と空の灰色が溶け合って、まるで別世界のようだった。
「……ロンドン、なんだね」
はるかが小さくつぶやいた。
その声には、期待と不安が交じっていた。
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◆ 空港からの車内
「左側通行……日本と同じはずなのに、なんか違って見えるね」
車窓から流れていく街並みを見ながら、陽菜がぽつりと呟いた。
赤い二階建てバス。煉瓦造りの住宅街。見慣れない看板や英語の広告。
「でも信号の音、変だよ。ピコピコじゃないもん」
「そうだな。音も、空気も、日本とは少しずつ違う」
陽菜は後部座席から窓に顔を寄せる。
その頬に、疲れと興奮と――少しの不安がにじんでいた。
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◆ はじめての家
新居は、ロンドン郊外の住宅街。小さな庭と、赤いポストのあるレンガの家。
不動産サイトの写真より、少し年季が入っていたけれど、どこか温かみがあった。
玄関のドアを開けると、かすかに木の匂いがする。
「うわ……おっきいソファ!」
「お風呂、浅い……!?」
日本の生活と違うところが、いちいち楽しくて、驚きで、少しだけ寂しかった。
キッチンではるかが手にした食器は、少し欠けていた。
けれど彼女は笑って言った。
「……なんか、外国って感じがするね。映画みたい」
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◆ 寂しさと、温かさと
その夜。
時差の影響か、陽菜は早く目を覚ましてしまった。
カーテン越しに、薄暗い空が広がっている。静かな静かな朝。
そっとベッドを抜け出し、キッチンに行くと、悠真がコーヒーを入れていた。
「パパ……ねむれなかったの?」
「うん。ママも、たぶん起きてるよ」
陽菜は黙って、父の隣に立つ。
目の前のマグカップから立ち上る湯気に、なぜだか少し、安心する。
「こわくはないか?」
「ううん……でも、ちょっとさみしい」
悠真は静かに陽菜の髪をなでた。
窓の外、曇り空のむこうに、小さな光が射しこんできた。
「この街にも、きっと陽菜の“好き”が見つかるよ」
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◆ エピソード終わりに…
ロンドンという異国の地で始まった、新しい日々。
言葉の壁、文化の違い、想像以上に大変なことが待っている。
けれどこの家族は、それでも前を向く。
それぞれの夢を胸に抱えて。




